絵のように美しい女

恋したスワンの目にはオデットが、フィレンツェの画家、サンドロ・ボッティチェルリの描く絵の女性に似ていると思えるようになるのだった。
今年の6月から新潮社で「全集」が発刊されている辻邦生さん、その辻邦生さんの小説、『春の戴冠』を読んで以来、我が心に息づいているフィレンツェ、僕にとってイタリアの他のどの街よりも身近に感じられるようになったフィレンツェ、そこはサンドロとジュリアーノ・デ・メディチとシモネッタが生きたフィレンツェなのだったが、まさかスワンがサンドロの絵が好きだったとは、しかもサンドロの描く絵の女性に似ているから、という理由でますますオデットを好きになっていったとは…。
スワンが好きになった女性、オデットは、サンドロの描く絵の女性(ボッティチェリの描く旧約聖書出エジプト記」のエテロの娘でモーゼの妻になるチッポラ)に似た美女だと思うようになるスワンだった。

深夜のパリ

それでもスワンはしっかり、オデットよりも若いお針子の女の子とかとも遊んでいて、ブーローニュの森でその若いお針子ちゃんといちゃいちゃ、イチャイチャしていて、ヴェルデュラン夫人のサロンにオデットを迎えに行くのが(そう、スワンは、いつもいつもオデットをヴェルデュラン夫人のサロンに迎えに行っていたのだ、19世紀末のフランスのアッシーちゃん)遅くなってしまい、オデットは怒って、『新宿のパーク・ハイアットのバーにいるから、スワンが来たらそう言ってちょうだい!』と執事に言い残して、一人でヴェルデュラン家を後にしてしまうのだった。遅れてヴェルデュラン家に到着したスワンは“夜の新宿、裏通り”ではなくて、パリの街をオデットを求めて探しまわるのだった。そして深夜、ようやくオデットを捜して出会えた二人は、その夜、初めて結ばれるのだった。