ベルゴット

かなり健康状態が悪化しているにもかかわらず、フランスの小説家、ベルゴットはパリのジュ・ド・ポーム美術館に「オランダ派絵画展」を観にいった。
その絵画展で、フランスの小説家、ベルゴットはオランダの画家、フェルメールの「デルフトの眺望」にいたく感動するのだった。なお、その絵画展には他にもう二点、フェルメールの絵が出展されていた、「真珠の耳飾の少女」と「牛乳を注ぐ女」の二点である。
そしてフランスの小説家、ベルゴットはオランダの画家、フェルメールの「デルフトの眺望」を鑑賞しているうちに気分が悪くなり、床に倒れ、『黄色い小さな壁面、黄色い小さな壁面』と呟きながら、死んでいくのだった。
フェルメール(1632-1675)の死後200年以上もその輝きを失わない芸術作品と、その絵を鑑賞しながら亡くなる作家を描くことによって、浮き上がってくる、真の芸術作品の持つ永遠性。
もちろんベルゴットはプルーストが創造した想像上の作家である。

ベルゴットの死

あのスワン家で出会い、言葉を交わしたこともある語り手の憧れの小説家、ベルゴットhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040921は長いこと患っていた。
けれどもベルゴットはその病身に鞭打って、数か月前からの不眠にもめげず、ジャガイモを少しだけ食べてから、オランダの画家、フェルメールの絵「デルフトの眺望」を観に、美術館に出かけた。フェルメールの「デルフトの眺望」は、小説家ベルゴットを感動させた。
『おれの最近の作品はみんなかさかさしすぎている。この小さな黄色い壁のように絵具をいくつも積み上げて、文章そのものを価値あるものにしなければいけなかったんだ。』
しかしながらひどいめまいが彼を捉え、ベルゴットは「疵のついた黄色い壁、黄色い壁」とつぶやきながらソファにくずれ落ちてから、『あのジャガイモめが…』と思う間もなく、新たな発作が彼を打ちのめした。彼は床にころがって息絶えた。
ベルゴットの葬式の日はひと晩じゅう、灯りに照らし出された本屋のウィンドーに彼の著作が三冊ずつ並べられて、翼を広げた天使のように通夜をしており、もはやこの世に亡い人のための蘇りの象徴のように思われ、そしてフェルメールの絵がベルゴットに芸術の永遠性を思わせたように、この本屋のウィンドーはベルゴットの著作の永遠性を啓示しているかのようだった。