グレゴリ青山「ブンブン堂のグレちゃん―大阪古本屋バイト日記」

mike-cat2007-06-05



〝この新刊本には古本が詰まってます。〟
旅のグ」「しぶちん京都」の著者による、
古書情報誌「彷書月刊」の人気連載に、
大幅加筆&書き下ろしを加えた、偏愛的・古書エッセイ。
〝グ、18歳(乙女)が迷い込んだ場所は…
 めっちゃディ〜〜プな<大阪の>古本の世界だった。〟
ユルい気持ちで入り込んだ古本ワールドと、
その奇妙な住民たちを描いた、おどろおどろしく不思議な世界。
〝ようこそ、魅惑の古本ワールドへ<濃度100%!!>〟


グレゴリ青山、18歳。
仕事が楽そうで、場所も学校に近かったことを理由に選んだバイトは、古本屋―
わたしも本好きだから、なんて甘い考えを吹き飛ばすような、
濃ゆい、濃ゆい本好きの熱気と、独特の慣習を持つ古本屋の世界に、
ただただ圧倒されつつも、魅了されていくさまが、何とも楽しい1冊だ。
古本、そして本への愛もたっぷりと織り込み、味わいもまた格別。
旅行エッセイでお馴染みの、バタやんとの出会いなんかも描かれており、
雑誌「旅行人」からのファンにも楽しめる内容だ。


〝本当に体から古本のにおいがするくらい本好きなお客さん達
 会社員や公務員には向いてなさそうな個性的な店主や店員さん
 そして底なしの海のような古本の深い世界〟
古本といえば、のハタキへのこだわりだったり、
業界人しか入れない古本の「市」のレポートだったり、
古本が、古本として流通するまでの、さまざまな作業であったり、が、
グレゴリ青山のヘタウマ絵は、その濃ゆ〜い世界を、コミカルに描き出される。


基本的に、読む本は新刊書店で購入、を貫いているし、
初版本や特装本を買うことも別にないのだけれど、
古書の世界や、あの独特の空間には、とても興味がある
中学生や高校生の時分は、神田や早稲田の古書街をのぞくのが好きだった。
だから、ここで紹介される古本の世界には、思わず引き込まれてしまう。
古本の「市」なんて、一度のぞいてみたいな、などとかなわぬ夢も抱いてしまう。


大阪・梅田の古書街(阪急&第3ビル)や、天神橋筋3丁目あたりのマップに、
次々と登場する、魅惑の古本についての解説もついており、
古本好きならずとも、本に興味のある人なら、必ずハマる、お勧めの1冊。
あふれる蔵書に手を焼く人にはやや危険だが、読まずにはいられない魅力があるはずだ。


Amazon.co.jpブンブン堂のグレちゃん―大阪古本屋バイト日記


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大阪中之島・国立国際美術館でベルギー王立美術館展


昨年東京の国立西洋美術館で開催されていた同展の大阪開催。
地下鉄のポスターで気になっていたままになっていたが、
24日までと期日も迫ってきたので、ようやく重い腰を上げる。


200年の歴史を持つという同美術館は、ブリューゲルルーベンスらフランドル絵画の巨匠たちから、マグリットポール・デルヴォーら近現代の作家までを取りそろえたコレクションだ。


今回の目玉は日本初公開となるピーテル・ブリューゲル(父?)の「イカロスの墜落」。
時代に沿った展示となっているので、入場してすぐのお出ましとなる。

作者をめぐる論争や、慢心を戒める神話を題材にしながら、
当のイカロスといえば、右下でボチャンとやっているだけ、
ダイダロスも登場しない、というなかなか不思議な構成もそそる作品だ。
〝手前に描かれた農民や羊飼いの姿が、勤勉と労働の美徳を示す〟というのが、
少々説教くさい気もするのだが、そのコントラストが何ともいえないな、という印象。


同展のポスターにもなっているピーテル・ブリューゲル(子)の「婚礼の踊り」

主催者のサイトだと、勝手にFLASHで踊っているのだが、あれはアリなのか?(笑)
いかにも当時の風俗や文化が感じられる、生き生きとした作品だな、という感じ。
しかし、手前の農夫のパンツがどうにも気にかかる。
モッコリし過ぎじゃないのかね、君? よく見るとパンツの構造もヘンだし…
と、芸術を前にしても平気でつまらないことを考えてみてしまう。
まあ、当時の画家だって、高尚な意図ばかりで書いているわけではないから、
そういう見方だって、ありなんじゃないかな…、という勝手な言い訳もつけておく。


かのレンブラントの師というヤーコプ・ファン・スワーネンブルフの「地獄のアイネイアス」は強烈。

古代ローマ叙事詩「アエネイス」の一場面を描いた作品は、
大きな口を開けた怪物あり、黄泉の国に浮かぶ難破船あり…
黙示録を思わせる地獄絵図だが、どこか現代のアニメを思わせる筆遣いも随所にあって、
これまらなかなか不思議な印象を残す作品である。
たぶん、この絵なら、2時間3時間観ていても飽きないかもしれない。


で、いわゆるベタな宗教画はさらっと流し、ズイズイと現代に近づく。
デルヴォーの「ノクターン」は、まさしく妄想世界。

ジュール・ヴェルヌの「地底旅行」や、不自然な姿勢の裸の女性たちが、
ひとつの世界で混ざり合うその絵は、何とも言い難い魅力を放っている。
おそらく、美術品という既成概念を取っ払って、
心理学者なんかに分析させると、かなりとんでもない結果になりそう。
釈迦を思わせるようなポーズで、上半身裸という部分にも、何か理由はあるのだろう。
ダリなんかと同じで、不思議な作家自身も不思議なんだろうな、と思っていたら、
これもシュール・レアリズムかと思っていたら、分類的には違うらしい。ううむ。


そして本日のマイベストが登場、マグリットの「光の帝国」である。

これはまさしくシュール・レアリズムでいいそうだ。
どう違うかは説明を読んでもよくわからない。でも、まあいいか。
真昼の青空と、夜に浮かぶ湖畔の邸宅。
矛盾する2つのものが混在しつつも、対立していない、ということらしい。
でも、左側にそびえる黒い樹なんかは、
どこかその調和に乱れをもたらしているような気もして、ちょっと落ち着かない。
だが、その落ち着かなさが、個人的にはとても気に入っていたりする。
思わず絵はがきを買ってしまう、というベタな行動まで取ってしまった。


その他、美術展カタログ「イカロスの墜落」のマグネットも買ったりして、
あくまでベタな行動に終始した挙げ句なので、
クイーン・アリスが経営する館内のレストランクイーン・アリス アクアで、
ベルギー料理なんかも食べてしまうことにする。ほんとベタ…
ちなみにテーマは「食と美の融合」だそうで。
さすが商売人、石鍋シェフはきっちりとツボを抑えてらっさる。


前菜は「アンディーブとビーツのサラダ」と「アボカドと甘海老のサラダ」。
ビーツのパリパリ感に「いいね♪」と笑みをもらし、お次はメイン。
以前行ったベルギー旅行を思い出しながら注文したのは、

「うなぎのポシェ ハーブバターのソース」と、

「豚バラ肉のカルボナード 赤キャベツのブレゼ添え」。


うなぎはなかなか濃厚なバターが印象的な逸品。
パリパリに素揚げされたシロ舞茸との食感のコントラストが楽しい。
うなぎもう一枚欲しいよな、というのが正直なトコだが、
まああのバターのコクがあれば、1枚でも十分かもしれない。


カルボナードは、ベルギー名物のビール煮込みだったはず。
確かブリュッセルでは仔牛のカルボナードをいただき、
けっこう美味しかったのだが、豚バラ肉のやつもなかなか悪くない感じだ。
こちらも赤キャベツと一緒に食べると、
赤キャベツの風味と豚の脂の甘みがマッチして、口の中でとろける。


で、デザートはベルギーといえば、の定番。

アツアツのチョコレートワッフルに、
つめた〜いバニラアイスを添えると、何でこんなに幸せなのだろう。
思わず会話を忘れるほど美味しく、食べるタイミングも難しいが、
やはりこれこれ、とベタの上塗り3乗ぐらいの気分を楽しむ。


コストパフォーマンスもまずまずだし、
少なくとも、「美術館の食堂」と思えば、これ以上は望めないだろう。
すっかり気に入ったマグリットと、
口の中に残るチョコレートワッフルの余韻を楽しみつつ、中之島を後にした。