トラウマティック銀幕 黒水仙
代官山の蔦屋書店に行ってきた。近所のTSUTAYAとは全く次元がちがう別物。
DVDの品揃えがすごいので、肝心の本を見る時間がなくなったじゃないか〜!
<黒水仙>
カルカッタの聖母マリアしもべ修道会。シスター・クローダは院長に呼ばれる。
「モブで奉仕活動を行います。セントフェイス修道院の最年少院長として赴任を」
院長は新修道院に赴任するシスター選びで病弱で性格に問題のあるルースも加える。
「転治療用となるかもしれません」最年少院長に試練を与えるためか、厄介払いか。
ダージリンの先の2700mの高地にあるモブ。修道院は急峻な山に建つ宮殿跡だ。
その宮殿はかつて‘女の館’と呼ばれた後宮で、艶めかしい壁画が残っている。
モブには英国人の男ディーンが住んでおり、修道女たちには頼りになる存在だ。
だが、彼は悲観的に見ている。「雨季までもたないだろう」以前は修道士が半年で帰国。
シスター・クローダは反発する。「ここが‘信仰の館’と呼ばれるようにしてみせます」
彼女たちは修道院内に病院と学校を設けて村人に奉仕し、薬草や野菜を畑で栽培。
学校の初日、この地を治める将軍が金を配って、大勢の子供が修道院にやって来る。
クローダはいずれ金の力ではなく、純粋に教育を求めてやって来るだろうと楽観的だ。
だが、ディーンは冷徹な助言をする。「病院では症状のひどい病人を受けつけるな」
もしその病人が死ねば、村人はその死を修道女たちやもらった薬のせいにするからだ。
院長のクローダには難題がいっぱい。男子禁制なのに将軍の息子は押しかけ生徒に。
ディーンから託されて修道院で裁縫を学ばせていた娼婦カンニは将軍の息子を誘惑。
シスター・ルースも異常な行動。ディーンに対して異様な執着心を示すようになる。
他にも断水したり、謎の発疹ができたり。畑仕事が手につかないシスターがいる。
「昔のことを思い出すのです。今までずっと忘れていたのに。ここの空気のせいです」
クローダにも思い当たる。恋人がいた頃を思い出して祈りを忘れることがあるからだ。
マイケル・パウエル+エメリック・プレスバーガー+ジャック・カーディフ三位一体の、
魔法のような奇跡のような宝物のような映画。世界映画遺産にするなら筆頭候補。
この映画の一番の驚きは断崖に立つモブの修道院がすべてスタジオ撮影であること。
謎の力を及ぼす元後宮の妖しく不穏な空気。夜の神秘の風をとらえた映像が絶品。
デボラ・カーのクローダは難題を押しつけられても弱音を吐かない自尊心の強さと、
ディーンへの対抗心を燃やすものの、負けたときは潔く認める清々しさでとても男前。
このふたりにはルースが嫉妬するような感情はない。お互いを尊敬しあうライバル。
だって、カンニの扱いやルースに迫られたときの反応を見る限り、ディーンはゲイかも。
今回のトラウマはそんなディーンの乗り物。高地だからロバは仕方ないんだろうけど、
大柄で半ズボンの長い脚を窮屈そうに折り曲げて乗る姿は…、歩いた方が楽そう。