俺女

 何故、俺は俺と言ってはいけないのか。
 みんな、俺が俺というと変な顔をする。


 俺が女の子だから?
 俺が鴫崎佳恵という名前だから?
 俺が典型的な暗くて教室の片隅で一人本を読んでそうな風貌だからだろうか?


 それは、間違いではない。むしろほとんど当てはまっているといっていいと思う。
 しかし、喋り方はこの通り「俺」が一人称の男言葉だ。それが俺に合っていないからといって何が悪い。自分の勝手ではないか。
 この喋り方で、数々の人が離れていったのは事実。一時期はやめようかと思ったこともあった。
 けれど、
 この喋り方じゃないとまるで誰かを演じているみたいで、
 それが俺は嫌いなんだと思う。
 自分が自分であるために必要なんだ。




「ふむ、えらいね」
 それは、高校の入学式後初HRでの自己紹介の時にこの口調でどん引きされながらも紹介して席に戻った時に、隣の席に座ってた子が言ってくれた言葉。
 上月椎奈、それがその子の名前だった。
 彼女はHR後の休み時間にも話しかけてきた。
「いつもそんな口調なの?」
「そうだけど」
「ふーん」
 そう言って彼女はひとしきり頷くと、いきなり前置きなしに言った。
「友達になってくれないかな? 気に入った」
「え?」
 それは誰からも言われたことのない台詞だった。少なからず、動揺した。目の前が真っ白になるぐらい。
「いいのか?」
「いいともいいとも。私の中学からここに来たの私だけだからさ。友達いなかったんだ。それに、よっちゃんには感心したし。今時、こんなはっきりした自分を通した人も珍しい」
「そうか・・・」
 「でさ」、と言いながら椎奈さんは身を乗り出した。
「その口調、なんかの小説読んだ影響?」
「うん、そうだが」
「私もさ、本読んだ影響でよく口調が変わるんだけど、学校ではさすがに出せないなあ」
「まあなあ・・・」
「ということで、よろしく」
 椎名さんは右手を差し出して来たので、ほとんど反射的に手を握る。それが俺たちが友達なった始まりだった。



 こうして友人ができ、俺には彼女のおかげでより自分の言葉に自信が持てるようになった。
 これからどうなるか分からないが、とりあえずは自分らしく生きたいと思う。