セゾン自動車火災のネット進出

もうこれは1年以上前の話になりますが、セゾン自動車火災保険株式会社が「おとなの自動車保険」(正式名称:セゾン自動車保険)をネットをメインとして大々的に売り出しました。
募集開始は2011年1月11日、保険始期は2011年3月1日からです。
この「おとなの自動車保険」自体もなかなか興味深いので改めて別途書きたいと思いますが、今回は保険会社としての立ち位置をターゲットに書きます。
 
セゾン自動車火災では、2種類の自動車保険(自賠責保険は除く)を取り扱っているようです。
おとなの自動車保険(セゾン自動車保険)とAPS+(セゾン自動車総合保険)です。ディスクロージャーの説明を読むと、どちらも個人向けの自動車保険であることが分かります。
つまり、同じ顧客層に対して募集経路によって異なる自動車保険を販売することになります。
このことはあまり一般的ではありません。特に、1つの保険会社で自動車保険について対面販売と通信販売の両方を扱い、かつ通信販売ではインターネットでの契約において高額な割引を適用するというのは私の知る限りでは他に1社しかありません。
その1社は、エース損害保険株式会社です。
そして、そのエース損保は、インターネット専用家庭用自動車保険について2012年6月15日以降始期契約は引き受けない…つまり、販売停止することを公表しています。
セゾン自動車火災とエース損保では通信販売に対する取り組みにだいぶ違いがあるようなので、同じ結果になるとは思いませんが、生じる課題はほぼ同じだろうと思います。
その課題とは、保有件数の減少の恐れと損害率の悪化の恐れです。
 
保有件数に関しては、継続率の減少は免れないでしょうから、新規をどれだけ取るのかにかかってきます。継続落ちを上回るだけの新規契約を獲得すれば件数ベースでのこの問題は生じません。ただし、通販の方が大幅に安い保険料としているので、継続落ち件数=新規獲得件数では、元受正味保険料ベースでは落ちてしまいます。
その落ち込みを防ぐには、販売コストをかけて広告・宣伝等をやるという対処が考えられます。
実際、インターネットでおとなの自動車保険の広告を見ることが非常に多いと感じます。
 
損害率の悪化は、APS+の保険料>おとなの自動車保険の保険料である限り、防ぐのが困難な問題かと思います。
事故頻度が保険料に関わらず一定なら、保有件数の増減に関係なく損害率は高くなります。
仮に、APS+に悪績契約ばかり集まっており、おとなの自動車保険が平均的な契約ばかりであるという状況であれば、事故頻度の前提が変わるので好ましい結果が望めますが、この仮定が事実であることはまずありえないでしょう。
 
このおとなの自動車保険という新商品をインターネットをメインで売ることは、セゾン自動車火災にとって大きな方向転換であり、賭けであると言えます。
なお、セゾン自動車火災のリリース資料では以下のように書かれていますが、インターネット割引10,000円(通販でも電話・郵送は適用なし)を見ればインターネットをメインに考えられていることは明白です。

当社は、『おとなの自動車保険』を、株式会社クレディセゾンとの提携関係を活かして、2800万人のセゾンカード会員マーケットを中心に幅広く販売してまいります。

 
その賭けに出た背後には、株式会社損害保険ジャパンの強い意向があったのではないかと私は見ています。
その意向は、ずいぶん前に「損保ジャパンのセゾン自動車火災への影響力強化」(2010.2.26)で書いた内容です。
特に、日本興亜損害保険株式会社の子会社であるそんぽ24損害保険株式会社を抜いて、グループ内のダイレクト系損保の合併を見据えて優位に立とうという意図が感じられます。
 
また、損保ジャパンの意向とは別に、セゾン自動車火災は自動車保険の正味収入保険料が年々減少しているので、その対策をせまられていたのかもしれません。
ちなみに、今のところは上に書いた2つの課題は顕在化しておらず、正味収入保険料は持ち直したようです。