秋の空と光と水、そしてタルコフスキー。


朝の空気はぐっと冷たさを増し、背筋がしゃんと伸びるのがきもちよい。柔らかくきりりと澄んだ光を感じ、水を飲む。乾いたからだに染み込んでゆく。まだすこし喉や鼻に違和感がありぼーっとしながら夕方、池袋に向かう。新宿を過ぎると窓の外の景色はいきなり「遠くに来た」感を醸し出し、改札を出ると上京したばかりの子のようにおろおろしてしまう。池袋はやっぱり慣れない土地だ。不安になりながら辿り着いた新文芸坐タルコフスキー2本だて「ノスタルジア」と「サクリファイス」、ただでさえぼんやりしている体調であるのに見届けられるのだろうか?の計5時間。
ところが寝なかったの!(と誇ることが哀しすぎる・・・)
スクリーンで見ることは初めてで何年振りかで久々に見るのだけども、これまで10何インチのブラウン管で見ててすみませんでしたと深く土下座いたします。
色。構図。光。陰。水。火。木。その映像は深く深く、見えていなかったものまで見えてくる。光のはじっことか闇のなかに佇む気配とか水の透明度とか。あああ。
ノスタルジア」で激しい雨音が響くほの暗い部屋の、正面の窓を開け放った途端にスクリーンからこちらへ流れてきた湿り気のある冷気にはぞくぞくした。
そして音。静寂の、生活音の、自然音の、ノイズの、美しさ。こころの動きと共鳴する音。
寝なかったからこそこんなシーンあったっけ?の連続で(情けない)途中ちんぷんかんぷんでタルく感じる部分にどうしよーかと思ったりするときがあった、でも静かに聳える完璧に構築された映像や音響は奇妙なまでに美しく、圧倒されて頭をぐるんぐるんと振り動かされるのだった。そして、わたしが惹かれてしまう感覚の根っこの部分がここにも広がっているのだなと思うのでありました。
秋深まるこの時期の空気感のなかで鑑賞出来てよかったなあ。