休符だらけの音楽装置展

鼓膜と発音源の間になんの空間もない音楽のあり方ではなく、空間やノイズをもう一度とりもどすこと。自分一人の音楽ではなく、多くの人々の耳を、手を、体を通過する中で見えてくる音楽を今つくるとしたらどういうものになるのか。こうしてENSEMBLES展ははじまりました。
休符だらけの音楽装置 宣言」より。

この力強い宣言に導かれ、真夏の原宿で見た「without records*1」とparabolica bisでの「〜EXTRA*2」が非常に印象深かったこのシリーズも、いよいよ終盤。
今回は秋葉原の外れの、廃校になった中学校の屋上を使ったインスタレーション。それも17時半〜21時の開館。いったいどんなものになっているのか、興味津々でありました。

向ケ丘遊園では晴れていたのに一気にどんよりな空になり、ポツポツ降り出してきました。あらら。
入場時、「強風で破損したオブジェもあり、今も突風で何かが飛んできてしまいそうなので気をつけてください」と言われてちと、オドオド。もう暗くなったなかに学校に忍び込むこと自体がスリリングでワクワクしながら階段を上がると、わああっ!
ぽっかりとエアポケットのような空間がそこにありました。
ビルに囲まれながらも、真近に際立って高いビルも無いので、すうっと視界が広がっていくのです。それに東京タワーとかわかりやすいランドマークも見えないので、位置感覚が掴めない。なんだかすっごく不思議な感じ。
バスケットゴールがあって、いかにも学校の屋上なトコロにギターやら何やらヘンテコ音楽装置が転がってる。あっちこっちに点在するそれに戯れる。
2度と同じ音は鳴らないだろう。そして、この、秋葉原なのかどこなのかよくわからない中途半端な場所の、元学校の、それも屋上という、なんとも中途半端な、「この空間」だからこそ鳴り響く音。
雨混じりの冷たい風が吹いて、「音」がこぼれる。それは意識しなくちゃ「音」って呼べないし気がつかないような、そういうもの。
風などの自然条件だけでなく、そこに近づく人によっても奏でられる。
この屋上の空間そのものが音楽装置であって、ひとつひとつのオブジェも、集まった見知らぬ誰かと誰かも、不思議な力に巻き込まれて、この瞬間にまさに即興演奏でつくり出す音楽がここにありました。
わけのわからないものにこころ動かされて楽しんでしまうって、なんて素敵なんだろう。


音楽に対して、常々うまく言葉にならないままくしゃくしゃしている疑問にドーンと大きな回答を与えてくれたような、清々しさが気持ちよかったなあ。そういえばこの場所の空気感、佐賀町の、今はなき食料ビルを思い出しました。


会場を出て、カレー屋さんで晩ご飯。複雑なスパイス使いに、静かに興奮したこころが更にカッカッと沸き上ったのでした。