今あなたはどこにいますか?
何を思ってそこにいますか?
●亡き人○
『・・・あの』
私は暗闇に佇む人物に声をかけた。
姿さえ曖昧なその人は答えなかった。
『初めまして』
初めて会うにも関わらず、その人物を私は知っていた。
身の程知らずの私は勝手に自分と比べていた。
似ていると感じ、それを今まで信じてきた。
だが、今、目の前にいるのはそれ以上の存在だった。
神々しい程の力量を備えたその人物は全てが尊敬すべきものだった。
そして、それは絶対に届かない。
どんなに手を伸ばそうとも届かない。
私はその現実に抗い続けていた。
いつか追い付ける。
いや、追い付けずとも、近い景色を見ることができる。
そう信じていた。
だが、それは夢だった。
愚か者が考える幻想だった。
それは一目見てすぐに理解した。
この人には敵わない。
自分の願いは叶わない。
生きてきた重みが違う。
生きてきた質が違う。
生きてきた思いが違う。
全てにおいて負けていた。
そして、それ故に求めた心は触れることなく、仕舞い込むことになる。
分かっていながらも辛かった。
目の前に憧れがあるのに、何も出来ない。
目の前に愛があるのに、近づけない。
それは、二度目の死を意味していた。
二度目の夢が崩れ去るとき、私は死んだ。
だが、それでも、あなたはここにいるのだろう。
目の前に立ち、私を見るのだろう。
それだけで私は満たされるのだ。
その視線に殺され生かされながら、私は自分の心の痛みに向き合うのだろう。
生きた時代に逆らいながら、涙を流すのだろう。
残した功績の差にどうすることもできずに、ただ追いかけるのだろう。
同じ道は歩けない。
それでも、その近い道を歩こうとする。
それは、変えられない。
思いを変えられないのと同様に、それは根付く。
心の奥深くまで。
いつかあなた色の花を咲かせ、私は後ろを振り返る。
今まで置いてきたものを見て、少しの悲しみに暮れながら、再びあなたを見る。
きっとそれは後ろの大切なものへの敬意なのだ。
そして、同時にそれは目の前の人物への侮辱となる。
その二律背反に苦しみながら、私は許しを請うのだろう。
それは決して思ってはいけない。
秘めなければいけないものを差し出したとき、私は二人に軽蔑されるだろう。
生きる場所が違う二人に。
『・・・・さん』