福福荘の福ちゃん

 藤田容介監督のコメディー映画。
 森三中大島美幸が、坊主頭でオッサン役を演じることが話題となった作品ですが、キャラクターの魅力あふれる優しい喜劇になっていました。


 大島演じる主人公、福ちゃんは、ぼろアパートに住む30代の塗装工。気は優しくて力持ちですが、中学生時代のいじめに傷ついて、女性嫌い。かつてのいじめに加担したヒロイン(なにかというと酒に逃げる)が、人生につまずき迷った状態で、この主人公に再会し、立ち直るきっかけをつかんでいきます。このストーリーを主軸として、アパートの住人や、エキセントリックなカレー店主など、生きるのが下手な人々の物語が、優しい視点で語られます。


 この映画の魅力の大きな部分を、主人公の福ちゃんというキャラクターの人間的な魅力が占めています。
 大島美幸に、喜劇役者としての風格を感じました。寅さん映画をきちんと観たことはないのですが、寅さんが愛されたというのは、こういうことなのかなあ、となんとなく理解できた気がしました。
 福ちゃんのキャラクターの魅力は、脚本、演出、大島美幸の人間的魅力、大島美幸の演技力の足し算によって達成されたもので、大島美幸の人間的な力と、それを見出した監督の演出力の賜物と言えるでしょう。女性がオッサンを演じることで、非モテ系なのに清潔感があり、豪快なのに、繊細な部分も残っている感じがよく出ていました。


 4コマファン的には、主人公の同僚シマッチ(荒川良々)が、(以降ネタバレ)入院した主人公のために、『かりあげクン』全巻(50冊以上)の新品を、病室に差し入れるというシーンが、強烈な印象を残します(隣のベッドの生気の無かった患者が、読んで笑い転げるシーンも含め)。しかも、この豪快な行為が、「面倒見はいいが、ときどきやりすぎる」シマッチというキャラクターの、的確な表現になっているところが、じつにぬかりなく、この映画のおおらかな魅力が、綿密な計算の上に構築されていることを実感させられます。