月刊すてきな終活

 小坂俊史の4コマ漫画単行本。
 16人+1人の主人公の物語を、各話6ページ、10本の4コマ漫画で描きます。
 テーマは終活です。しかし、死を想うというイベントを触媒として、各人が自分の生き方を再構築していくという、人生についての漫画になっています。そのため、主人公たちは、この物語の中では死にません。
 「死なないルール」をめぐっては、ドラマチックな死よりも、平凡な人生のほうが大事なのだ、という人生への暖かな視線と、死ねば所詮はゴミなのだ、という死への諦念が、作者のなかで共存しているのかもしれません。
 各話10本の4コマ漫画というのは、4コマ漫画雑誌における新人の読み切り4コマと、本数的にはあまり変わりません。キャラクターの紹介だけで終わってしまっても、不思議ではない本数です。
 しかし、この作品では、その限られた本数のなかで、4コマごとにオチをつけながら、キャラクターを描き、その生き方を描き、死を想うイベントを描き、その帰結を描く、という離れ業を演じています。
 6ページの4コマ漫画の中に、人生の縮図を切り取ることも可能である、などということを、この作品を読むまでは、想像したこともありませんでした。それでいて、大上段に振りかぶったところはなく、読みやすいエンターテインメントに徹しています。


 以降、印象に残ったエピソードを。

Case 2:昭男(58)の場合

 1ページ目だけで、夫婦のこれまでの時間がきちんと想像できてしまう説得力に「なんだこれ」と思った回。辛口であるということと、愛があるということは、両立するんだなあと改めて感じました。伏線もバリバリ効いています。

Case 3:ウメ(88)の場合

 夫の出征と「激おこぷんぷん丸」が出会うというマジック。

Case 4:正蔵(75)の場合

 「夫の遺言を読む」ということが、妻の死に方のスタイルでした。

Case 5:ミチカ(14)の場合

 切れ味鋭い中二病4コマ。終末論に取りつかれているけれど、基本的に嘘はつかない友人の、主人公を不要に甘やかさない一方で、必要とされるときには寄りそう姿勢。

Case 9:タケル(80)の場合

 死ぬ気がしない男の終活ならぬ婚活。

Case 11:淑子(70)の場合

 70歳からの自分探し。茶碗エピソードの辛口が印象に残る。

Case 12:レイカ(23)の場合

 霊感を持つというアドバンテージゆえに道に迷う、というパラドクスを描いた作品。

Case 14:A氏(44)の場合

 自殺願望から逃れた途端に、前衛演劇のようだったタッチが、リアリズムに転換するという鮮やかさにやられました。死に取りつかれるって、周りが見えなくなるってことなんだなあ、と。

Case 16:S氏(78)の場合

 無期懲役から仮釈放された男。ところどころで、38年前の犯行時の甘えがフラッシュバックしてくるのが、リアルでもあり、シビアでもあり。


 また、各話に1本ずつ収録された余命の女シリーズが、続けて読むと、実に完成度の高い連作4コマになっていたことも、驚きでした。余命の女が死ななかったことを、肩すかしと感じた読者も多かったようですが、貪欲に生きる女の1年半として、きれいなコメディーになっています。