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100年の孤独

2018-03-13 こんばんわ。椎名彩花です。

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このあいだ突然、やかんの取っ手がとれた。びっくりした。やかんは落下して、熱湯がキッチンに降り注いだ。やかんの取っ手は、ときどきとれる。やかんはおとなしい顔をしてるけどキレたらやばいやつだという事が分かりました。気をつけたほうがいい。本を読みながらコーヒーが飲みたくなった私のために、夜中の三時に突然働かされたことが気に障ったのだろうか。おとなしくエナジードリンクでも飲んでろというんだろうか。私はやかんの言い分にも一理あると思います。エナジードリンクにもカフェインがたくさん入っているからね。ふふふ。あつかったな。

 

今読んでるのは、ウィリアム・バロウズという人が書いた「裸のランチ」という小説。薬物中毒者の悪夢的な妄想が断片的につぎはぎされたお話で、はっきり言って意味不明。なんでこんな本を読んでいるかと言うと、何よりもまっ黄色の装丁がとてもカッコいいし、インターネットでこの小説はアメリカで一番「万引き」される本だって紹介されていて、え?何?っていうかそんなランキングあるの?と興味を引かれたのが大きい。あと、アイドルだった頃、ファンにちょっと猟奇的な小説を読んだ話をしたら「暗くて絶望的になるお話は若くて心が耐えられるうちに見ておいたほうがいい。年をとってくると暗い物語が耐えられなくなって楽しい話、幸福な話しか見たくなくなってくるからね」と言われたのを、この本を手に取った時にふと思い出して、それが最後のひと押しになったからです。万引きはしていません。ちゃんとお金を出して買いました。読んでいるとすぐに眠たくなるのでとても便利です。つらい事があった日などは特に助かっています。副作用もありません。

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2018-03-07 こんばんは。椎名彩花です。

f:id:mimiminsu:20180221222352j:image:w360:left傘を持っていなかったから、雨が降る前に帰りたいと思って、私は早足で歩いていた。周りはとっても曇り色で、一日歩き通しで疲れていたし、風がちょっと強く吹いてきて、通りにはぜんぜん人がいなくって、壁ばっかり目について、壁も、ユトリロみたいな白色じゃなくて、くすんだ橙だし、なんだかとってもしょげてしまった。そうこうしていると雨が降ってきて、早足にも疲れてしまって、ついに諦めてしまった私は、濡れながら足裏で這ってるみたいにちいさく歩いた。

家に着くとすぐに風呂場にむかった。本当は湯船につかりたいけど、ぬれねずみのままでお湯が溜まるのを待つのもいやで、とりあえずシャワーを浴びた。冷えて固まった体にお湯を浴びせてほぐしながら、お風呂入りたいけど、なんかめんどくさいしやっぱりお湯貯めなくてもいいかなぁ・・・と思案していると、肩のところに新しいホクロを見つけた。「だめね。これは黒死病だわ」と昔見た演劇の台詞を真似すると、急に元気が出て、一人で笑ってしまった。ペストになると皮下出血で全身に黒いあざができる。それでペストの事を黒死病というのだと、何かの本で読んだ。

中世ヨーロッパでペストが大流行した時、入浴の習慣のないヨーロッパ人の間では流行したけど、入浴の習慣を先祖から受け継いできたユダヤ人は中々感染せずに、この事から毒を盛ったと疑われ各地でユダヤ人に対する虐殺が起きた。私は「やっぱりお風呂に入ろう」と思い直して、バスタブにお湯が溜まるまで、部屋でwikipediaの「ペスト」と「コレラ」の項目を熟読しながらおとなしく待った。wikipediaを読みながら鼻歌で「ペスト」という曲を作り、カップリングの「コレラ」の作曲に手をかけようとしたところで自動音声のお姉さんの「お風呂が沸きました」と告げる声が聞こえた。彼女の声はいつも優しい微笑みをたたえている。それで、急にこれまで彼女の声を無視してきた自分の心が卑劣なものに感じられた。たとえば頷くくらいのことができたらよかったのに。変わりなく、心が卑劣だったとしても。

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2018-02-27 こんばんは。椎名彩花です。

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「なんだかデートみたい」と私が言うと「・・・デートじゃ、だめだった?」と彼は言った。私は彼と彼の背後にいる(物理的な背後ではなく観念としての背後です)彼女を見た。彼女は私がアイドルだった時からの友人であり、彼は彼女の恋人で、二人が付き合い始めたのはもう三年も前になるだろうか。彼は誰かの幻想のように洗練されていて、彼を見るたび、ファッション誌の広告写真みたいだと私は思った。商品不在のイメージだけのコマーシャル。とっても空虚でとってもクール。

 

「いいですよデートでも」と私は言い、彼の表情を確認する。ものごとの順調な進行を見守りその順調さに満足している人の顔。ベルトコンベアの動きを確認する工場長。試験管の中身を確認する科学者。彼はあきらかに私を見くびっていて、私が彼の思惑どおりに動くことを当然ととらえているように見えた。私の生活に不足しているものを憶測して、それを与えてやれば私がそれをがつがつ食べてしっぽを振って仰向けに寝るだろうと、そう思っているようだった。

 

私はぼんやりと彼を見て「ステキですね。モテるでしょ」と言う。そんなことないと彼はこたえる。こうして自分から一生懸命アピールしないと誰もこっちを見てくれない。大げさな身振り手振りと芝居がかった表情で彼は言う。「一生懸命アピールすればたいていOKですか」と私は訊く。意地悪だねと彼は言っていかにも愉快そうに笑う。愉快なのだろうと私は思う。愉快な工場長。愉快なベルトコンベアとしてのデート。その上に載っている私。このままいくつかのベルトコンベアを経由し、その過程で加工された私は最終的に誰のための何になるんだろう。

 

「ちょっといい気分にさせて、彼女とうまくいってないって言ったら私が簡単に自分のこと好きになると思ってるんですか?」私は架空のベルトコンベアから飛び降りて、架空の工場の架空の電源を落とした。「私のこと別に好きじゃないのにどうして私と浮気したいんですか?彼女に浮気されてそんなに口惜しかったんですか?腹いせは知らない女じゃだめで、彼女の友だちじゃなくちゃいけない、それくらい口惜しかったんですか?かわいそうですね。同情します」イメージトレーニング通りに噛まずにうまく言えた達成感と、怒りと、ほんの少しのうしろろめたさ。自分の顔が紅潮しているのが分かる。彼はさっきよりずっと愉しそうに笑って、なんだ知ってたのかと言った。浮気されたならともかくしたことまで友だちに話すんだね、そういうタイプじゃないと思ってたんだけど。女の子は怖いね。

 

「彼女の新たな一面が見られてよかったですね」と私が言うと、彼はつくづくと私を見て、それから、いいことを教えてあげよう、と言った。僕は浮気された腹いせに同じことをしてやろうと思ったわけじゃない。あのね彩花ちゃん、世の中の浮気の何割かは、してる側がわざとばらすんだよ。細かなヒントをばらまいて、あやしげな態度で、見つけてもらうのを待っている。された側は疑う、苦しむ、証拠を見つける、のたうちまわる、ためらう、ついに問い詰める。こんなに盛り上がることがあるか。何年も一緒にいたら飽きる、どうしても飽きてしまう、僕らはそれが怖い、相手が飽きているのも自分が飽きているのも知っている、それがとても怖い。「浮気されて、それで盛り上がって、うれしかったんですか?」私は尋ねた。うれしかったよと彼はこたえた。許してくれって泣きつかれてうれしかった、思い出して苦しいのがうれしかった、だってそんな目まぐるしさって、最初のころみたいじゃないか。

 

それを聞いて私は胸焼するような変な感覚に襲われて、ひとことで言うと「もう勘弁してくれ」というような気分でいっぱいになって、そのまま彼とは別れて家に帰った。別れ際、後ろからごめんとかなんとか聞こえてたはずだけど、構ってあげる気分には到底なれなかったので聞こえないふりをした。私は最初、彼は私を暇つぶしのおもちゃにしようとしているのかと思って、それで腹が立って、こらしめてやりたい気持ちだったのだけれど、彼の話を聞いていると怒るとかこらしめるとか、そんな元気は全部気化して消えてしまった。間違っていると思った。体中にやたらめったらチューブを挿されて人工呼吸と点滴と透析で無理やり延命処置を施された瀕死の老人みたいな、そんなグロテスクな恋愛関係は正しくない。

 

私はきっと正しい世界を望んでいるのだと思う。こんな事を考えるのは、私が子供だからなんだろうか。何も考えたくない。亀の甲を撫でて暮らしたい。家に着くとすぐ部屋着に着替えた。亀は甲羅の中に手足を引っ込めて完全に遁世の体だった。裏切られたような気持のままベランダに冷やしてあるエナジードリンクを取りに行くと、藍色からオレンジにグラデーションする夕焼けの空に月がでていた。空に煙るそれは世界の代わりに醜くなるような無血の英雄のようだった。その英雄は最後の晩餐の食卓に降りかかり、繊細な料理をジャンクフードに変えていき、安っぽい私の味覚をうっとりさせてしまう。悲しくなるのは、それらを残らず吐き出すための時間さえまた満足にあるのだろうということだった。私は今や、耐え切りたいのだ。

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2018-02-21 こんばんは。椎名彩花です。

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もう会うことがないだろう人々に優しくされて無性に切ないというような夢をみて起きると涙が出ていた。朝食に卵のピクルスを食べた。毛布を押し入れにしまって、そこで昔親からプレゼントされたさまざまな虫の標本を見つけた。積み上げていたはずの箱はなだれていて留められた虫は崩れていた。箱を全部押し入れから出すと、クリスマスツリーか何かを収納したいと思う余白ができて、そこにアイドル時代にファンにもらったプレゼントや手紙類をまとめた箱がすっぽり入った。

ベランダでごみ袋に虫を捨てた。オレンジ色した蝶の羽根は枯れ葉と同じ散り方をした。粉々になったモルフォ蝶は割れたアルミのようだった。虫を捨てる午後のはじまり。柔らかな陽ざしが心地よく、ベランダには死が蔓延していた。隣の部屋のテレビからオリンピック中継の音が漏れ聞こえていて、それで私は「これが世界だな。これが生活だな」と思った。これが世界じゃなく、もしもこれがお話だったなら、ウォン・カーウァイの映画で流れるようなBGMが欲しいのに。

部屋に戻ると、亀が保護者のような顔でじっと見つめてくるので、仕返しにキャベツを食べさせた。私はもらった試供品のエナジードリンクをコップに移してから一気飲みして、またベランダに戻った。エナジードリンクは色が分かった方が体に悪い感じがヒシヒシと感じられてカッコいいと思う。

ここ数日はほとんど引きこもって昼も夜もなく寝てばかりいた。腰がいたい。彼氏でも作れば少しはこの生活も改善するんだろうかと思うけども、それもまたおっくうで、そもそもそんな不純な動機では相手にも失礼だし…というのは言い訳で、やっぱりどうしようもなく面倒くさくて、イヤフォンで音楽を聴きながら、亀の甲を撫でたり、ファンからもらった手紙を読み返したりして時間をつぶしてしまう。ファンの中で一人、毎月自分の近況を○○通信と題して送って来る人がいて、新聞連載の小説のようについつい続けて読んでしまうのです。

私たちにできることはただ、私たちの生活を美しく耕すことだけなのだと、誰かが言っていた。生活の在りかを知らないならば美しくできる土地はないのだろう。私の世界はベランダの柵に寄りかかりながら風に少し飛ばされていく虫の死骸の横にあって、でもそこはどこでもよいのだった。耕されるためばかりにあるのではないだろう、土地も。

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2018-02-20 こんばんは。椎名彩花です。

f:id:mimiminsu:20180220000450j:image:w360:left冷蔵庫が壊れた。冷気を帯びないそれは不気味な音のする棚に成り下がった。

しようがないからその日の食材だけ買って来て、それをベランダに置いている。冬で良かった。外気は冷たい。野菜や冷凍肉を、ベランダに持って行ったりベランダから持ってきたりするのは、前時代的で、より家庭的な気さえするのだけど(家庭菜園してるっぽいから)、朝は寒くてつらい。冷蔵庫がほしい。

雨が降った夜にベランダの食材に気づかず放置して寝てしまった時は、翌朝になってやっと気づいた自分への怒りと、それを凌駕する無力感で脱力して、床にへたり込んで泣きそうになった。というか、涙が出なかっただけで、確かに私の心はあの時泣いていた。実際のところ、雨に濡れたからと言って肉や野菜に悪影響があるかといえばなさそうなんだけれども「外に放置している事を忘れて雨ざらしにしてしまった」というのがとてもみすぼらしく感じられてしようがなかった。それでもうまったく心が打ちのめされしまった私は、もう少しで冷蔵庫の入った「欲しいものリスト」をtwitterで公開するという、物乞いのような事をしそうな精神状態だったけども、とっさに飼っている亀の甲に頬を付けてその生臭さに死にたくなるという自傷行為に耽る事で難を逃れた。「死にたい」に「死にたい」をぶつけて相殺することでギリギリのところで踏みとどまったのだ。亀には悪い事をしたと思っている。

新生活応援フェアみたいなものが、もうすぐ電気屋で始まるはずで、それまではなんとかこのまま頑張ってみる。

 

先週は未彩と遊んだ。未彩は私がアイドルだったころ、同じグループのメンバーだった。久しぶりに会う未彩は以前にもまして色が白くなって、なんだか消しゴムと人間のハーフのようだった。未彩は少し独特な子で、ときおり話がかみ合わなかったりする。例えば「昔こんなことがあったね」とアイドル時代の思い出を話題に出すと、そうだね。こんなこともあったね。と言って紀元前ローマ文明の話を始めるような無軌道さがある。でもそれと同時に、話がかみ合わないままでも相手を不快にさせない不思議なオーラを持っている。なので二人で話していると、話の着地点がなくフワフワと宙ぶらりんなまま永遠に話が続いていくような心地よさがある。

ピザを食べながら二人でとりとめのない話をする中で、自然とアイドル時代のプロデューサーの話になった。今でも時折夢に見る事がある。プロデューサは、もうどこからもイベントのオファーが来ない。私たちの力が無いから、やる気がないから、もうこのグループは活動を継続できない。と言った。私はあの時何かを言い返したかった。でも何を言えばよかったのか。自分の生殺与奪の権利を握る相手に向かって何を言えばいいのか。私には分からなかった。

第二回ポエニ戦争のとき、アルキメデスローマと敵対するシラクサの地で画期的な兵器をたくさんつくっていた。だけど、家の外で土に図形を描いていたアルキメデスローマの兵士に見つかってしまって、そのときにアルキメデスは「私の図形を踏むな」と言った。それで怒ったローマ兵に殺されてしまった。自分のことを殺せる相手になにを言えばいいのかよくわからない。剣を持ったままなにを言えばいいのかもわからない。だれかの目を抉ったりするだろうか。アイドルを、辞めろというのだろうか。私はいつもアルキメデスではなかった。兵士でもなかった。私は、アイドルだった。大きくなったら冷蔵庫屋さんになりたい。

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