水木しげるは面白いのだ

年末から年始にかけて、江戸東京博物館大(Oh!)水木しげる展なる催しがあったのですが、ついのんびり過ごしてしまったために行きそびれるという不覚をとりました。

いきなりですが、水木しげるって大好きなんですよ。もちろんきっかけは、鬼太郎、三平、悪魔くんっていうお約束な部分から入っているわけですが、妖怪モノってのをひとまず置いといて、一作家として芸風が好きだというのが正確なところです。というか、作品のみならず、どうも人自体が面白い。

まあ人自体が面白いといってもお知り合いではないので、まず直接体験できる作品に目を向けますと、具体的には、まず絵ですね。トボケたキャラの表情なども捨てがたいですが、やはり時々登場する、圧倒的に密度の濃い風景画などに鬼気迫るものを感じます*1。こういう部分はかなり貴重だと思うので、出来ればサイズの大きい版で持っておきたいと思わせるところがあります。

また、絵自体とは違うかもしれないけれど、「昔の日本」を描いた時のリアリズムもスゴイ。妖怪モノに妙な説得力があるのも、この画質の力に負う所は大きいと思うですよ。しかしこういう感覚というのは、世代的なモノかもしれませんね。若い人にはあまり通じないのかもしれません。

なによりも、セリフの文体やキャラクターたちの個性。実に味わい深い。もうたまんないっすよ、これは(笑)。あきらかに「水木節」ってのがあって、思えば、子供の頃にコレにやられて水木ファンを自認したものでした。このへんが、妖怪モノにかぎらず水木作品に心奪われるポイントであり、もはや何を描いても、水木しげるである限り面白いという事になってしまうと。

それからよく指摘されるのが風刺性でしょうか。確かに風刺的なテイストはそこここに溢れていますが、これも攻撃的というよりは、かなりのんびりした雰囲気といえましょうか。逆に、私などはそんなところにちょっとしたスゴみを感じたりもしますが、そもそも、ねずみ男のような愛すべき*2悪役キャラが狂言回しとなって風刺性を発揮したりするあたり*3、実は作者本人もそんな効果をネラってやっているのかもしれません。

ほんまにオレはアホやろか (新潮文庫)こんなシビレる作品をつくるのは一体どんな人なのだ?と思うのは自然な事です。自伝的な本はいくつかありますが、「ほんまにオレはアホやろか」というのがよくまとまっているかと*4。なんとも奇妙な魅力を感じさせる人です、というか、なんとまあ生命力にあふれている人かと。時代のせいとばかりはいえない激動人生ぶりですが、思えば「鬼太郎」が売れた時には、もうすでに40代半ばだったんですよね。もうこの人の生き様を読むと、人間、大抵の事は大丈夫、という気にさせられますよ。とりあえず、水木しげるのことを「妖怪博士」ぐらいにしか思っていなかったとしたら、それはたぶん人生におけるちょっとした損失というものです。

調べてみると、大(Oh!)水木しげる展は各地を巡回中だそうで、これはもう、どこかへ出かけてゆかねばなるまい。しかし、今は新潟の新津、4月から旭川、6月から岐阜、8月から高知。境港*5には行かないのか?!さて、どこへ行くべきか(笑)。

*1:タッチは違うけど、杉浦日向子にも同系統の感動があります

*2:と思わせるところもスゴイ(笑)

*3:狂言回しとしてのねずみ男の活躍の場は「鬼太郎」にとどまらず、通常漫画や「昭和史」など幅広く登場しています

*4:「子供の頃はガキ大将で妖怪研究に夢中。その結果、入学試験は失敗、学校は落第、就職しても寝坊でクビ。そのうち戦争が激しくなり、兵隊として南方の最前線に送られ、片腕を失いながら九死に一生を得る。終戦後、南の島で見つけた「楽園」に魅せられながら、赤貧時代を経て「ゲゲゲの鬼太郎」を生むまでを、激動の現代史に重ね合わせつつ描く、なんだか元気が出てくる自伝的作品。」とはamazonでの内容紹介

*5:水木しげるの出身地。水木ロードなど妖怪フレイバーあふれる街づくりに励んでいる、らしい。