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2008-02-17

[][]ベストセラーは普通に大学図書館に所蔵されている


前回エントリ:「柔軟な本選び」か、それともただの責任放棄か - かたつむりは電子図書館の夢をみるか


朝日新聞で報道された「ブックハンティング」(学生による選書)の試みについて、「それで結局ベストセラー選ばれるんだったら、学生の選書に頼らないで図書館員が自力で選べばいいじゃん」という話をしたところ。

朝日新聞の記事内で紹介されている本の、実際の所蔵状況を調べる、という面白い試みをid:humotty-21さんがやってくれました。



結果の詳細はhumotty-21さんの記事を見ていただくとして、自分が特に気になったのはやはりベストセラー本の所蔵状況の詳細。

  • コトラーマーケティング入門の所蔵巻数を見ると、"クローズド・ノート"、"鹿男あをによし"は割と平均的。約5分の1が所蔵している(広辞苑は全館あるんじゃないのかなぁ?)とみても、「ブックハンティングでないと選書されない」わけではないと考えられる。
  • ベストセラー本は大学図書館でも所蔵している館は多い
  • "ミリオネーゼの起業入門"と"また会う日まで","『もうひとりの自分』とうまく付き合う方法"は「ブックハンティングではないと選書されなかった」かもしれない

そもそもベストセラー本は(ブックハンティングの有無にかかわらず)大学図書館にけっこうあるんじゃないか、と。

この点は自分も感覚的に思っていたこと。

別に世の大学の全てが研究大学ってわけでもなし、学部教育型の大学なら一般書メインの蔵書構築になっててもおかしくない。

「先生が研究に使う高度な専門書なんて学生は読まない/読む必要がないのだから、自分の研究費で買ってほしい。うちの大学の図書館は学生が必要としている資料を提供するためにある」っていう意見は実際に聞いたことがあるし、すべての大学が研究者を育成しなければいけないわけではない/むしろ社会に必要な人材を育てる、って意味では一般書の充実の方が大事な可能性もある、って点を考慮すれば、割と世の大学図書館の大勢はそっちにあるんじゃないか、とか思ったり思わなかったり。


言い換えると、元ネタの朝日の記事の

ベストセラー小説や旅行ガイド、実用書など、これまでの大学図書館にはあまりなかった本が次々と蔵書に加えられている。

この前提がそもそもおかしいんじゃないか、と。

"本当に「ベストセラー小説」や「実用書」は、「これまでの大学図書館にはあまりなかった」のかい?"とかなんとか。


というわけで、せっかく同記事内に取り上げられた分はhumotty-21さんが調べてくれたので、ついでだから2007年のベストセラー本(文芸、総合、ビジネスの3分野)の上位10位の所蔵状況を全部調べてみました。

やり方はhumotty-21さんと同じく、NACSIS-Webcatを使って1件1件検索かけます。



ちなみに2007年8月31日現在のWebcat接続機関は1,201、うち大学(4年制大学)は697です。

参照:目録所在情報サービス


大学附属高校の図書館の蔵書とか、高等専門学校の蔵書とかもヒットするので必ずしも検索結果が所蔵大学図書館数と一致するわけではない点、また(筑波大附属図書館なんかが代表的ですが)分館が複数館としてカウントされる場合があるので厳密に母数(「1館」としてカウントされる図書館数)がいくつなのかは測りかねる部分がある、などの注意が必要ですが・・・

とりあえず今回は厳密な研究ではなくあくまで大雑把に状況を見る、ってことで、その辺の不具合については見過ごして問題なさそうな場合(所蔵館数が十分に多い場合)は無視する方向で。

ケータイ小説ライトノベルなど、怪しげな部分については実際の所蔵館名を確認して、「これは4年制大学で間違いないだろう」って分を備考に記入しておきます。


ベストセラー」の選び方ですが、これもどこで選ぶかで全然変わる(Amazonで選ぶとなんか美容法とかの本が上位とか・・・)のですが、とりあえず今回は取次大手、トーハンの2007年上半期ベストセラーを使うことにします。

あえて2007年全体ではなく上半期に絞ったのは、あんまり最近の本だと逆に所蔵がないかなー、という可能性も考えて。

決して最初に見つけたのが上半期のベストセラーで、それで作業を進めてしまったので後に引けなくなったわけではありません。

まあ、上半期に区切ってしまったせいで「恋空」が入らなかったのは残念ですが・・・そこら辺(面白げなベストセラー)については、上半期ランキング見たあとで追加で見る感じで。


ではさくさく行ってみましょう。

まずは2007年上半期、「文芸」トップ10の所蔵状況。



2007年上半期「文芸」トップ10*1のNACSIS-Webcat所蔵状況
順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数備考
1赤い糸メイゴマブックス200745ケータイ小説。上下巻だが、両方所蔵していても2回カウントはされない。
2もしもキミが。ゴマブックス200728ケータイ小説。4年制大学図書館で間違いないと思われる件数は14。
3一瞬の風になれ佐藤多佳子講談社2006330既刊3巻。所蔵館数は第1巻を所蔵している館数。
4純愛稲森遥香スターツ出版200723ケータイ小説。4大確定11。
5DDD(Decoration Disorder Disconnection)奈須きのこ講談社200726ライトノベル(の定義はめんどいのであれだが、まあ我らが菌類の閣下)。既刊2巻だが、両方所蔵していても2回カウントはされない。4大確定13。
6東京タワー オカンとボクと、時々、オトンリリー・フランキー扶桑社2005503関係ありませんが大泉洋が好きです
7ひとり日和青山七恵河出書房新社2007313うちの卒業生。筑波図情にも所蔵あり。
8クリアネス 限りなく透明な恋の物語十和スターツ出版200725ケータイ小説。4大確定16
9翼の折れた天使たちYoshi双葉社200667ケータイ小説(なんだよね?)。3巻。複数所蔵していてもカウントは1回。
10永遠の夢百音竹書房200610ケータイ小説。4大確定8。

*ランキングはトーハン調べ*2


・・・見れば見るほど、なんか違う問題点に言及したくなるランキングですが、まあそれはさておき・・・

ケータイ小説がわんさかランクインしてますな(やっぱり言及せざるをえない)。

さらに我らが中二病の王者、奈須きのこの「DDD」(講談社BOX)も堂々のランクイン。

いずれも所蔵自体は決して多くはありませんが、しかしゼロでもありません。

確認した感じ、ケータイ小説ライトノベルを所蔵している図書館はなんか特定の名前が良く上がるので、それこそブックハンティングを行っているか、蔵書方針としてそれらの図書を受け入れることを打ち出しているのやも。


一方で一般文芸のベストセラーの所蔵は相当入っています。

参加機関1200強って言ったって、その中には大学協同利用機関みたいな文芸書は絶対いらないだろう、みたいな施設も含まれているわけで・・・

リリー・フランキーの「東京タワー」は実質過半数の大学図書館には入ってる、ってことでしょうな。

ほとんどhumotty-21さんのところで言われている広辞苑の所蔵数に迫る感じだし。

なんだ、やっぱ全然普通に大学図書館に所蔵されているんじゃん、ベストセラー小説。




とりあえずベストセラー小説が所蔵されていることを確認して勢いをつけたところで、続いて2007年上半期「総合」ランキングとの対比。


2007年上半期「総合」トップ10*3のNACSIS-Webcat所蔵状況
順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数備考
1鈍感力渡辺淳一集英社2007279ちなみにmin2-flyの出身校の卒業生です。
2日本人のしきたり飯倉晴武青春出版社2003162
3女性の品格 装いから生き方まで坂東真理子PHP研究所2006369
4ポケットモンスター ダイヤモンド・パール 公式全国大図鑑ファミ通書籍編集部エンターブレイン2006なし
5ポケットモンスター ダイヤモンド・パール 公式ぜんこく図鑑完成ガイド元宮秀介&ワンナップ編著メディアファクトリー2006なし
6赤い糸メイゴマブックス200745ケータイ小説。文芸1位。
7国家の品格藤原正彦新潮社2005510
8もしもキミが。ゴマブックス200728ケータイ小説。文芸2位。
9世界の日本人ジョーク集早坂隆中央公論新社2006275
10ポケットモンスターダイヤモンド ポケットモンスターパール パーフェクトクリアBookNintendoDREAM編集部毎日コミュニケーションズ2006なし

*ランキングはトーハン調べ。


文芸ランキングに引き続きケータイ小説が2冊、ランクイン。

当然ですが所蔵状況は変わりません。

そしてポケットモンスター関連の攻略本が3冊もランクイン。

さすがにこれを所蔵している図書館はありませんでした・・・公共図書館でも「ファミ通」とかならともかく、特定のゲームの攻略本なんて(「ふさわしくない」と言う意味でなく、「水物(発売後はものすごい需要の伸びを見せるが、皆がクリアする頃には需要が皆無になる)であるため入れる意味がない」と言う意味で)なかなか入れないだろうしなあ・・・図書館と相性が良くないよね、攻略本。

もっとも、逆にある程度時期がたってから「これは不朽の名作である!」と判断したゲームの攻略本やら関連資料やらをきちんととっておくと、後々のゲーマーにとっても価値ある気がするので、それはそれでありな気もしますが・・・って話がそれたな。

それ以外の本については全て3桁以上のオーダーで所蔵されています。

やはり年数がたつほど所蔵館が増えるのか、2005年に出た『国家の品格』は所蔵数500を超えていますな。

まあ、新書入れる大学図書館は多いしねえ・・・継続購読している図書館に加えて、話題の本と言うことで新たに取り入れる大学図書館も現れれば、当然所蔵数は増えるか。



それでは最後に「実用書」代表ということで、2007年上半期「ビジネス」ランキングとNACSIS-Webcatの所蔵状況の比較。



2007年上半期「ビジネス」トップ10*4のNACSIS-Webcat所蔵状況
順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数
1鏡の法則 人生のどんな問題も解決する魔法のルール 野口嘉則総合法令出版2006200
2できる人の勉強法 短時間で成果をあげる河内哲也中経出版2006104
3人生を変える!「心のブレーキ」の外し方石井裕之フォレスト出版200645
4餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?林總ダイヤモンド社2006139
5生き方 : 人間として一番大切なこと稲盛和夫サンマーク出版2004178
6一瞬で自分を変える法アンソニー・ロビン三笠書房200636
7なぜ、社長のベンツは4ドアなのか? 決算書編小堺桂悦郎フォレスト出版2006139
8成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝レイ・クロック, ロバート・アンダーソンプレジデント社2007116
9チャンスがやってくる15の習慣レス・ギブリンダイヤモンド社200718
10幸福を呼びよせる朝の習慣佐藤伝中経出版2006なし

*ランキングはトーハン調べ。翻訳書については、表が長くなるので訳者は省略。


うーん、やはり3桁以上の所蔵館を持つ本が多いは多いけど、文芸ランキングにおける一般文芸(ケータイ小説ラノベ以外)や、総合ランキングに比べるとやや所蔵が少なめ、かな・・・?

もっとも、humotty-21さんによれば『コトラーマーケティング入門』ですら所蔵173館、とのことだから、それに比べると決して少ないわけではないのかも知れない。

自己啓発本が少ないか・・・と言われれば、『鏡の法則』は200機関に入ってるし、『生き方』も178機関に所蔵あり、とのことなので、そういうわけでもないみたいだし・・・

総合ランキングとかの所蔵状況に比べれば自己啓発系はややムラが出るものの、やはりベストセラーの中には多くの機関で所蔵されているものが多い、と。



番外編

ついでなので2007年年間ランキング(http://www.tohan.jp/tohan-news/07-12-04.html)上位で面白そうな奴について、所蔵状況をチェック。

まずはケータイ小説の代名詞みたくなってきた『恋空』。

順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数
10(総合)/1(文芸)恋空 切ナイ恋物語(上)(下) 美嘉スターツ出版2006164

トーハン調べ


いったーっ。

今回ランクインしたケータイ小説中、唯一の所蔵100機関超え。

ここまで話題になるとケータイ小説なんのそのって感じなのか・・・逆に文学的興味から読みたがる人も出てくるだろうから、そういう所蔵もあるのかも知れないな・・・

一応、確認しましたが普通に4年制大学でもけっこう入ってます。

国立大でもいくつか所蔵を確認。

筑波はありませんでした。残念。

旧帝大も(附属高校を除き)所蔵なし・・・ふむむむ。


続いて、一時はてな上でも著作権に関する間違った主張などで話題になった(もちろんその他の点でも話題になりましたが)『いつまでもデブと思うなよ』。

順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数
17(総合)/4(新書ノンフィクションいつまでもデブと思うなよ岡田斗司夫新潮社2007116

トーハン調べ


これまた普通に100館超え。

確認しましたが、これはむしろケータイ小説等に比べると4年制大学にこそ所蔵が多い感じ。

旧帝大でも所蔵している図書館があります・・・しかし、「痩身法」なんて件名あるんだな、初めて知ったよ・・・「ダイエット」じゃ駄目なのか??



最後に、最近とんでもない形で映画化が実現、文庫版が出ながら未だに新書版も新書ノベルスランキングに君臨し続ける、奈須きのこの『空の境界』。

DDDがけっこういい線行ってたんでもしかするともしかするんじゃないかとか・・・

順位書名著者名出版社名出版年所蔵館数
6(新書ノベルス)空の境界(上)(下)奈須きのこ講談社200473

73機関とかwwwwww

ちょ、これこそ大丈夫かwwwwww

内訳としては高専系が非常に多いので、必ずしも大学図書館に所蔵されているわけではないとは言え、4年制大学でもけっこう持っているところはあります。

国立大学でも所蔵館はあります。

大学校でも所蔵しているところありました(たぶん「大学校」と言われて最初に思い浮かぶあそこです)。

「陸○にはKanon小隊がある」という噂が信ぴょう性を帯びたものに感じられてきますね。



まあ、そんなこんなで。


結論:ベストセラーは、少なくとも現在は、けっこう普通に大学図書館に所蔵されています。

小説(ケータイ小説除く)に限って言えば、『知的複眼思考法』(単行本311、文庫129)みたいな大学生必読と思われる本よりも入っていることもしばしばです。

よって「ブックハンティング(学生による選書)でこれまで大学図書館にあまりなかったベストセラーが購入されるように」という表現は正確ではない、と言えるでしょう。


ただしその後も色々見てみたところ、やはりベストセラー小説の中でも(ケータイ小説以外でも)分野による違いはある様子。

たまたま今回、上位にランクしてたのが『ひとり日和』や『東京タワー』みたいな比較的「文芸」色が強い作品だったから所蔵が多かった、ってのもあるのかも・・・

・・・と思って色々検索してみたが、単に典拠コントロールがうまくいってないだけでやっぱりそれ以外のジャンルもそこそこ所蔵あるなー。

まあ、『フリッカー式』よりは『1000の小説とバックベアード』の方が所蔵がある、みたいな傾向はあるが・・・ゆやたんの場合、そもそも『フリッカー式』世間でも売れてなかったからなあ・・・

あと、形態もけっこう作用しているか?

全体に文庫<新書<ハードカバー、の順で中身がライトノベルでも購入されやすさが増しているような感じ。

電撃文庫の『ブギーポップは笑わない』(6館)よりは講談社ミステリーランドの『酸素は鏡に映らない』の方が多い(30館少し)とか。


逆を言えばそういう、文芸ランキングよりはエンターテイメントよりなところから文学に入っていく系の小説家(最近だと桜庭一樹とかもそうか?)に早めに気付いて、ハードカバー以外の図書も購入するよう働きかける・・・みたいなことがブックハンティングで実現できると面白い。

「こいつは絶対、いずれ直木賞をとる!」みたいに主張する学生がブックハンティングで大量にライトノベルを購入したりして。

最近だと本当に直木賞をとりかねないから困る・・・下手すると芥川賞の方にノミネート、なんてこともあるしなあ・・・

いっそ「ノーベル文学賞を取る作家だ!」くらい豪語してライトノベルをハントする学生とかいると楽しいが・・・ってまた話がそれたな。


まあとにかく、すでに日本の大学図書館の大多数ではベストセラー小説購入してたりしますよ、と。

「だからブックハンティングは無意味だ!」って言うんじゃなくて、だから「ベストセラーとかが選ばれた、って言うのはブックハンティングの良さとしては主張できないでしょう」って話。

それよりはやっぱり広報的な側面だとか、あるいは資料選びって点から言えば「ベストセラーまでは行ってないけど学生とか若者の間で流行っていて、かつ今後ベストセラーになって行きかねないけど大学図書館員の目からは選びにくい図書」を拾える点に着目した方が面白いんではないか、とか。

流行って、認められて、ベストセラーになってからなら学生じゃなくても書評なりランキングなり見りゃ買えるけれど、そうなる前に流行りそうなものをいち早く見つけて来るのは、(まあ実際には図書館員にも大学生とさして変わらない本読んでる人も多いんじゃないかとは思うが)やっぱ学生の方が上手いだろうしね。

(しかしどうも話が小説に偏ってるな・・・まあ、実用書絡みはまたいずれ機会があったら掘り下げよう)。


しかしここまで調べてみると、そんな話はブックハンティングやってる図書館側でも絶対わかってる気がするな・・・となると、あれは記者の書き方の問題だったか??

まだまだリテラシーが足りない・・・むむむむむ・・・

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