かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

「ラーニング・コモンズ : 学びの場の新しいカタチ」-第17回 大図研オープンカレッジ


一昨日のエントリ末尾で宣言した通り、昨日は第17回大図研オープンカレッジ「ラーニング・コモンズ : 学びの場の新しいカタチ」に参加してきました。


講師は、


の御三方。
・・・なんという豪華メンバー・・・*1
これは面白くないわけないだろう、と思って行ってきましたが案の定大変興味深いお話を伺うことが出来ました。
大図研オープンカレッジについては後日、大図研シリーズとして報告集が発売されるので*2勝手にレビューアップしたらまずいかなぁ、とも思ったんですが。
後ほど開催された懇親会で実行委員の方々にお伺いを立てたところ、特に問題なさそうだったので*3以下、手もとのメモ等をもとに観戦記など。
例によって自分の理解の範囲内で、主観混じりでまとめてあるので、より正確なところを知りたい方は後日発売されるであろう大図研シリーズをぜひお読みください。


インフォメーション・コモンズ ラーニング・コモンズ(永田先生)

Information Commons(IC)とはなにか、Learning Commons(LC)とはなにか、ということについて、それらが要請された背景や英米における実例などを交えての説明。
まだダイナミックな環境下にあるのでLCの定義については変わり得る・・・というような話もされながら、ICとLCはどう違うのかをBeagleやBenettをひきつつ話されていた。
特にIC/LCの成立要件として技術的・物理的な環境や人的支援に加えて、「教育・学習環境」ということが日本におけるネックになりうる、というところを強調されていたように思う。
コース・マネジメントシステムやVLE(virtual learning environment)の整備とあわせてIC/LCを設置しないと・・・場だけ用意しても、そこで実際に学習ができるような環境が整備されていないと困る、という。
この点については後の質疑の中でもあらためて言及されていて、「図書館員が解決できる問題ではないが、大学としてなんとかしないと学習成果につながらない」と、大学や授業等との連携の必要を言われていた。
「大学の使命(学生の学習成果達成)の実現に図書館はどのように関わっていくか」と最後のスライドにあったが、そこは本当に・・・コンピュータがあって使えたり、居心地がいい快適な場所を作って、図書館の利用増えて良かったねでは(いや、それも大事なんだけど、それで終わってしまうんじゃ)大学の使命に貢献できてるんだかなんなんだか、という感じなので。
今後、IC/LCを置く上で考えるべき重要な、でも図書館だけじゃ解決しようがないから他との連携が必要な観点だな、と。


これも質疑の中でだけれど、「昔、あなた方(図書館・図書館員)は自習室を潰したでしょ? (学習に)使う資料は今、教員が用意しているわけで、それに関する図書館員の展望を持たないと、馬鹿げた盛り上がりになる」と永田先生がおっしゃっていたのはこのあたりをかなり気にされているからなんだろう。


ラーニング・コモンズでお茶大図書館は何が変ったのか!?(茂出木さん)

いちはやく「ラーニング・コモンズ」と名乗るスペースを図書館に設置した、お茶の水女子大学図書館でのここ数年の実践例についての紹介。
国立大としては小さく、図書館予算も少なかったお茶大図書館で、いかに欠点を利点に変え、「大学の中で孤立しない」「大学と協働する」図書館にするか、というお話でもあったり。
図書館の改修にあたり「崩れない限り全ての壁をとってください」と言って広いスペースを確保したことや、狭い組織であることを活かしてキャリアカフェなどとのコラボを実現したことなどが面白く紹介されているプレゼンだった・・・「図書館は学生のことを真剣に考えている組織である」、「お茶大図書館は妙に元気である」ということがラーニング・コモンズで対外的(図書館以外の学内)にアピールできた、と言われていたが、その感じがよく伝わってくるような。


LC、と言う点では情報基盤センターとのコラボレーションが実現できていることや、前述のキャリアカフェのような現代GPとの連携、教育理事から「PCを増設してくれ!」と言われた例など、他組織との連携がよくされている、と言うところが特に注目すべきところなのではないかと思う。
図書館単独でいくら頑張っても駄目で、大学の中で理解された取り組みとしてやる必要がある、と・・・まさに「大学の中で孤立しない」、「大学と協働する」図書館ということが重要。
先の永田先生の話にあった、教育・学習環境のところなんか、教員組織との連携なしじゃすぐ限界が見えるわけだし。
これについては「CiNiiのいま、これから」*4の中でARGの岡本さんから、教員と事務職(図書館員等)の関係についての言及もあったりして*5、今後ラーニング・コモンズに限らず大学に関するあらゆる取り組みの鍵になりそうな・・・
いや本当、みんな仲良うせんとあかんで(by『うしおととら』のお役目様)。*6


今、図書館に求められているもの〜「学習の場」としての図書館〜(畠山さん)

2000年にオープンしたミルドレット・トップ・オスマー図書館(オスマー図書館)の中で早くからインフォメーション・コモンズを設置していた国際基督教大学(ICU)の事例報告。
20世紀のうちからインフォメーション・コモンズ構想を持って取り組まれていた、と言う事も驚きだが、実際の設備環境についても良く考えられていて凄い・・・
使っている机とか、学生から「個人で使いたいから購入したい。どこで売っているの?」っていう問い合わせもあるくらいだそうです。
実際に家具屋さんを回って選んできただけのことはある。
「PCはすぐ買換えになるが、家具はほぼ一生使うもの」というのはまさに。


一方、レファレンス・サービスやPCに関する質問は当初デスクを分けていたが、後に統合した・・・という話も。
確かに学生にとっていちいち質問したいときに「これはこっちだな・・・」とか選ぶような発想はなかなかないだろうし、それでたらい回しにされると次から質問する気が失せる、というのも頷ける。


様々な取組みの結果、利用は活発でほぼ常に満席状態・・・というような状況とのこと*7
今後はサポート体制の強化や、論文作成指導にあたるライティングセンターの構想もあるとのことで・・・後者は、アメリカの事例紹介では本当によく出てくるのだが(それもIC/LC設置に伴う取り組みとしてではなく、既存のものとして)、日本ではめったに聞かない、というかなんなのかもよくわかっていない存在だったので、そんな構想があるということに強く興味をひかれる・・・
結局、自分もまともに論文執筆の方法に関する指導を受けたのって卒研ゼミに入ってからだったような気もするし、ゼミが手厚くないところだとまともな指導体制すらなさそうなわけで・・・いやその点、さすがICUというかなんというか、国内におけるリベラルアーツ系の勇だけあるな。


お茶の水女子大の方でも「リベラルアーツ支援図書館」ということが言われていたが、この点は今後の日本の大学を考える上で非常に重要である、とか自分は勝手に思っていたり。
みんながみんな世界最先端レベルの研究に取り組まねばならないわけではないし、研究なんて基本的に金食い虫なんだから旧七帝大と同じ尺度で測られちゃ規模の小さいところじゃそもそも勝負にならないわけで。
そうじゃなくて、社会に役立つ人材を育成する役割に特化した大学が、より正当な評価を得られるような(研究系の国立とかと並べて比べられるのではなく、違う役割を持つものとしてそれぞれが認識されるような)世の中の方が色々上手くいくんじゃないか、とか思うのだが・・・そしてLCは特にリベラルアーツ大学と相性いいと思うのだがどうなのか。*8 *9


質疑応答

さすがにここは全部書くとえらいことになる(60分質疑あったので!)ので、要点をば。


60分の質疑のうち、出てきた話としては

  1. 図書館員はいかに教育に関わるべきか(ICUのライティングセンター構想などと関連して)
  2. コースマネジメントシステム、VLEなどディジタル教材に関して(これは先の永田先生のところで書いた話)
  3. 静かな場所とおしゃべりをしていいラーニング・コモンズ等とのゾーニングについて(PCを使ってはいけないスペースがある図書館とかもあるが・・・)
  4. IC/LCのPRについて

など(自分も質問したりしていたので完璧にはとれていない・・・)。
特に前二者、図書館員が教育・学習にいかにかかわるべきか、というところは時間をかけて議論されていた。
茂出木さんからは「どこまで関わっていいのか?」という問いかけがあり、永田先生からは「教員と同じようにする、というのではなく、図書館員がいかに学生の学習成果を高めるのに寄与できるかを考える必要がある」ということで、あらためて教員・図書館員の相互連携の重要性等が言われたり。
「そういう形で図書館員が位置をキープできなければ図書館員は不要な人になる」、「図書館がどれだけ頑張ってもGoogleには勝てない。ひととして図書館員が大学の中でいかにして機能するか」などなど。
また、畠山さんからは図書館員が修士課程を取ることで、論文執筆等のライティングスキルについて(学生よりは)習熟することを進めていきたい、というお話もあった。




興味深い話はたくさんあったが、やはりこの教育・学習成果を高めると言うところと、教員や他組織との連携ってところが特に大事だったように思う。
「ラーニング・コモンズ」と呼び、「新しい学びのカタチ」と言うからには、教育・学習に携わる学内他組織とのつながりが何よりもないと・・・実際の学生がどんな学習をしていて、教育組織は学生にどんな効果があることを期待しているのか、とかさ。
もちろん今までの図書館も学習の支援をしていたと言えばその通りだが、学生の教育・学習の専門家では決してなかったのだし・・・端的に言って、図書館内での探しものや、せいぜいなんらかの情報を探しているときに図書館がどうにかしてくれることは期待したとしても、図書館が自分らの「学び」を支援してくれるだなんて多くの学生は思っていなかっただろうし、今だって思っていないわけで。
レポートや課題で困ったこと(資料請求以外)があったとき聞く相手は、教員、TA、先輩、友達であって、決して図書館員ではない。
そして聞く相手のいない多数の学生もいるかも知れない。
学習に本当に必要なのは、図書館資料じゃなくて、レジュメや教科書やノートや先輩から入手する過去問だったりする。
そして学生が主体的に学習しなくても点の取れる科目があったり、どう勉強していいのかわからないような科目があったりする。
そこら辺の話は図書館が一人で頑張ったってどうしようもなくて、やっぱり教員組織や他の学内組織(教務とか?)巻き込まないことには、というかむしろ図書館が主である必要すらなくて学内全体の取り組みとしてうまいこと持ち上げないことにはどうにもならんだろう、と言う・・・
図書館の在り方ではなく、まさに「新しい学びのカタチ」と言うがごとく、高等教育の在り方そのものを考え、見なおす視点がなければうまくはいかない(場として盛り上がったとしてもそこどまり)と思うのだが・・・


さてはて、そういう話はどこですると良いのだろうか・・・
そして教員⇔事務間どころか教員⇔教員間でもうまいこと連携出来てなさそうな予感のする現状でうまくできるのか・・・
それこそ、あんまり大所帯じゃないところの方がかえってうまく再構成できそうにも思うが、うーん。


・・・ま、場として快適なところがあるだけでもずいぶん助かるのも事実なんだけどさ。
学内にたまれる場所って思うほどにはないし。
でもそれだと、余所でやってたことをそこでするだけで、「新しい学びのカタチ」かと聞かれると・・・(もちろん多くの人がばらばらに余所でやってたことを一箇所に集まってやり始めることで、新しい何かが生まれる可能性もあるというか高い気もする。そっちに着目して進める路線もそれはそれで面白そう)。

*1:あとはカレントアウェアネスで『CA1603 - インフォメーション・コモンズからラーニング・コモンズへ:大学図書館におけるネット世代の学習支援 / 米澤誠 | カレントアウェアネス・ポータル』を執筆された米澤誠さんがいらっしゃるといよいよチートか?

*2:過去の出版物の購入はこちらから(また余所様の宣伝だ(汗)):http://www.daitoken.com/pub/series

*3:酔っていそうなタイミングで聞いたとかデハナイヨ!

*4:「CiNiiのいま、これから」 - かたつむりは電子図書館の夢をみるか

*5:よその大学だと教員の集まりには事務職来ない、事務職の集まりには教員が来ないとかってことがあって、なんと非常識な連中かと思ったが、CiNiiの人たちは見事に連携している、というお話

*6:実際、会場にはお茶大の情報基盤センター長もいらしていたくらいのそうなので、お茶大はIT/図書館が本当に仲いいんだろうなぁ

*7:これはお茶の水もそう。写真も紹介されていたが、ほぼ満席状態

*8:リサーチメインなら早々に研究室にこもるし、実験環境とかソフトウェアとか考えるとそっちのが色々やりやすいし

*9:もっとも、司会を務めたNIIの小野さんからもお話があったが、「お茶の水/ICUだから出来たことだ」(うちでは無理だ)と考えるのはただの思考停止。