かたつむりは電子図書館の夢をみるか(はてなブログ版)

かつてはてなダイアリーで更新していた「かたつむりは電子図書館の夢をみるか」ブログの、はてなブログ以降版だよ

むしろこれから起こるのはネイティブイングリッシュの破壊であるとか


下の『日本語が亡びるとき』の感想エントリについて先輩と話しているときに考えた話。
以前にTwitterでも取り上げた話題なのだけど、日本語が亡ぶかどうか考えるよりは『普遍語』に「なってしまった」英語の未来について考える方が面白いのでは、とかなんとか。


さて。
下のエントリでも書いたが、現在科学研究の世界では中国がものすごい伸びを見せていて、すでに英独日を抜き去ってアメリカに次ぐ第二の研究大国にのし上がっている。
これは論文生産数の話なので、要は世界で出回っている主要な科学研究論文(ほとんどは英語)の多くの部分は英語を母語としない中国人によって書かれているということである。
さらに中国に限らずインド、韓国、台湾などアジア諸国の論文生産数もこの10年で倍増あるいはそれ以上のペースで伸びており、ランク上位には入ってこないがそれ以外の中東諸国(イランとか。トルコは中東でカウントすると微妙だが)やブラジルなど南米の論文生産も着実に増えている。
また、EU諸国においてもスペイン、ベルギー、イタリアなどはこの10年で論文生産を1.5倍くらい伸ばしていて、英語圏であるイギリスが35%、アメリカに至っては10%の成長率しかないのに比べると着実に伸びている。
さらによく考えるとこれはあくまで「国別」のランキングで論文を書いた人間の出身地域を特定しているわけではないので、「アメリカで生産された」とされる論文の中にはアメリカ以外の、非英語圏出身の研究者による論文も多く含まれている可能性がある。
学術研究の世界で普遍語となっていると言われるだけあり、アメリカの論文生産数が群を抜いているため今はまだ(国別でみれば)英語圏発の英語論文の方が多いのだろうとも考えられるが(手元にグラフしかないのでちゃんと集計はしていないけど。もしかするともう抜いている?)、いずれ「英語を母語としない人間が書いた英語論文」の数がネイティブの書いた論文数を大きく上回る時代がやってくることは確実である。
実際、今の段階でも自分が日常的に読む英語論文の中でもかなりの部分、非英語圏出身者(中国、イラン、オランダ、そしてもちろん日本)の手によるものが増えている。


で。
たまに思うんだが。
ネイティブの英語論文より非ネイティブの英語論文の方が読みやすい場合がないか?
もちろん英語の表現としてはネイティブの方がこなれているんだろうし、ネイティブの論文でも読みやすいものも多いんだけど。
なんだかんだ言って母語としてその言語使っている人って(つまり自分にとっての日本語のようなものなので)難しい言い回しとか格好よくするための表現の工夫とかするわけで、でもそれって非ネイティブな自分みたいな読み手にとってはかえって理解しづらくなっていることがある気がする(全然表現はこなれてないけどこの文章が日本語母語としない人に絶対読みにくいだろうように)。
それに対して非ネイティブはそこまで難しい表現とか言い回し出来ないし、したくないってこともあってか、非ネイティブに優しい(中学〜高校の初期くらいの文法わかれば読めるような)論文になりがちな気がする(あくまで気がするだけだけど)。
あたりまえだけど自分の場合は日本人の書いた英語が一番読みやすい、みたいな。


すでにかなりの数非ネイティブの論文生産者がいて、読者はさらに多いであろう現状、本来であれば英語が母語じゃない者にとって読みやすい、非ネイティブの英語みたいなユーザフレンドリーな表現こそ好まれてしかるべきである。
だって科学研究の在り方を考えればより多くの人に理解できる方が好ましいんだし、だからこそ英語で書いてるんだから。
しかしながら、現状は非ネイティブが英語論文を書いた場合に入るのは「ネイティブチェック」だけであって、英語の文法や表現の正しさは見てくれるけどネイティブなんて一番小難しい英語表現を理解できる人たちなんだから、そんなチェックがいくら入っても非ネイティブに読みやすい表現になるとは限らない。
むしろ今後必要なのはネイティブチェックではなく、「非ネイティブチェック」であり、チャイニーズチェックやインディアンチェックやブラジリアンチェックやジャパニーズチェックになるんじゃないだろうか。
そこで日本で言えば中学か、せいぜい高校レベルでわかる程度の文の構造が簡易で、難しい表現がなく、語彙数が(必要最低限度に)少ない範囲の英語表現を模索して、それに則って書くようにすればずいぶんと非ネイティブに優しい英語論文になる気がする。
別に難しい表現にこだわらなくても論理通ってれば意味を伝える表現は出来るだろうし、それが出来るのが科学研究分野なんだし。
いいじゃん、別に"Because"や"But"が何回続いたって。
"That's why..."とか"However..."を使わなくたって。意味通れば。
関係代名詞が必要なら全部文を分けてしまえばいいし、とにかく中学生でも単語の意味知ってれば理解できそうなレベルまで表現力落としちゃってもまあなんとかなるんじゃないだろうか。


もちろんそんなことを言ったらネイティブサイドの猛攻にあうのは目に見えているが、すでに非英語圏生産の英語論文が一大勢力を成している今なら、共闘していけば学術研究における英語を作り変えていくこともそう夢じゃないだろう。
まず自分たちがなるべく簡易な英語表現を使う。
そして査読が回ってきたらなるべく簡易な表現に変えるよう突っ込みまくる。
編集委員とかになったらしめたもので、例えば接続しについての"USE"(〜を使いなさい)と"UF"(〜の代わりに使いなさい)のシソーラスを作るとかしてガンガン格好いい英語の言い回しを見て分かりやすいように作り変えていってしまえばいい(そうして出来た英語表現は、非ネイティブにとって読みやすいばかりか英語圏で暮らしているけどそこまで英語が得意でない/難しい表現が苦手な人(移民、若年者など)にとっても使いやすいものになるだろう)。


ユーザフレンドリーな/ユニバーサル・デザインな英語を、計画言語として作るんじゃなくて内部から徐々に浸透させていくという戦略こそ、「英語の世紀」に生きる非英語ネイティブとしての取るべき道なんじゃないかね、とかなんとか。
もちろん英語を母語とする人々にとっては大変鼻もちならない状況であろうが、そこはそれ、諦めろ「普遍語」w
上述のような戦略を実際に取るのはまあ、ありえないだろうけど(あったら面白いけど)、実際問題これからチャイニーズ・イングリッシュが学術研究を席巻するのは不可避で、そうなればどんなに中国人が英語がうまくても(イギリス英語とアメリカ英語があるように)中国人好みの英語表現が英語の中に混ざったり、果てはそっちが一部地域で一般化したりするから。


英語が研究において普遍語となった今、行うべきはネイティブイングリッシュの破壊と非ネイティブにわかりやすい普遍語としての再生である、とかなんとかー。
・・・べ、別に自分の下手くそな英語についての言い訳なんかじゃないんだからね!*1

*1:好き勝手書きましたが、自分の英語にネイティブチェックを入れて下さる方々にはいつも心より感謝しております。ごめんなさい本当に文法レベルで駄目駄目で。時制が間違いまくってたのは大学院生として切腹ものだと思いました、本当に。