かたつむりは電子図書館の夢をみるか このページをアンテナに追加

2009-06-13

[] 機械生成した意味をなさない論文を受理したオープンアクセス雑誌。目的は掲載料収入?


「オープンアクセス雑誌ってなんじゃい?」と言う方は以下のリンク先等を参照。


大雑把に言ってしまうと、「デジタルで,オンライン上にあり,無料,著作権・使用権制限の多くを受けない」学術文献(中でも査読済み論文)の流通のために、購読料収入以外で出版費用を賄うことで無料で読めるようにした学術雑誌がオープンアクセス雑誌です。

費用調達のモデルとしては論文の著者に出版にかかる費用を掲載料として要求する場合や助成金収入による場合など様々*1

PLoSシリーズやBMCなど、有名どころのオープンアクセス出版社による雑誌は掲載料を要求する場合も多いですが、一方でオープンアクセス雑誌の70%は掲載料を求めないスタイルであるとの話もあります*2


掲載料を請求するスタイルのOA雑誌については、割と当初から査読にからむ問題の存在が指摘されていました。

OA雑誌の多くは冊子体の雑誌は出版せずオンラインのみで雑誌を発行しており、冊子体を有する雑誌と違ってページ数等の制限がないためじゃんじゃん査読を通して論文を出版した方が掲載料がたくさん取れて儲かることになる、だからOA雑誌の査読は信用ならない・・・という話で、もちろんOA雑誌出版サイドはこれに反発しています。

実際かなり却下率が高いことで知られるOA雑誌もあったりして、必ずしもOAだから査読に問題があると言うわけではない・・・と言うことは確かであるようです。


必ずしもOA=査読に問題があるとはならない、わけですが。

じゃあどのOA誌も査読に問題がないかと言えばそうではなく。

やっぱり掲載料収入を得るために査読を思い切り緩くしているところがあるんじゃないか・・・と考えた研究者が実際に試してみた、というのが今回の話。


実験をやったのはCornell大学のPhilip M. Davis*3で、最近は学術文献へのフリーなアクセスは利用や引用のインパクトを増やすか、と言うような研究に従事している図書館情報系の研究者

ことの発端はBentham*4というオープンアクセス出版社から関係ないテーマに関する投稿を求めたり編集委員会に入らないかといったメールを2週間の間に3回受け取ったことだそうで*5

どうもこの出版社、他のオープンアクセス関係者からもうざがられている存在とのこと*6


そこでそんなに論文に飢えているなら掲載料の800ドルを求めてどんな論文でも受理してしまうんじゃないか・・・と思いついたDavisさん、試しにSCIgenというMITの院生が作ったコンピュータサイエンス論文を自動生成するソフトを使って作った論文をBenthamに投稿して見ることに。

このSCIgen, 文法的には正しく、図表やレファレンスも入っていて、外面だけみるといかにもそれっぽい論文を著者名を入れるだけで生成してくれます。

試しに自分でもやってみた結果がこちら:no title*7

min2-flyの拙いにもほどがある英語力だと自分の分野や興味のある分野以外の論文はどっちみちなに言ってんだかよくわかりませんが・・・なんかそれまで一言も触れてないbiologistが突然結論に現れたり、図のキャプションと中身がちぐはぐだったり、読んでると変であることはわかります。

でも見た目はそれっぽい。

PDFPostscriptの形式でダウンロードすることも出来、そうすると組版までやってくれるのでますますそれっぽくなります。


で、それをBenthamの雑誌に、ご丁寧に"The Center for Research in Applied Phrenology"(応用骨相学研究センター)なんて所属つけて投稿したP.Davis*8

それも一誌だけではなく複数誌に投稿していたようで、まず一誌からは査読者のコメント付きでリジェクトされたむねが戻って来ます*9

そのときは査読者のコメントで「何言ってんだかわかんないからコメントつけようがねえよ」とまっとうなコメントが返ってきたそうで「さすがにジェネレータで作った論文じゃ駄目かあ」と落ち着きそうだったのですが。


"The Open Information Science Journal"という方に投稿した論文が、査読を通って受理されてしまった・・・と言うのが最近明らかになったほうの話*10

すぐに取り消しを求めるメールを送ったものの未だ返事はないそうで・・・。

しかも今度は査読者のコメント等もないようで、いやいやいや、「本当に査読したのかよ?」と。


もちろん1誌からはちゃんとリジェクトくらったこともあり、Davis自身これを以て全てのBenthamの雑誌の査読が適当であるとも、あるいはOA雑誌全体に援用できるものでもないこともエントリ中で明記していますが。

一方で、著者が掲載料を負担するモデルが編集者の意思決定に不当な影響を与える可能性についての一例となるものであるともしています。


刺激的なテーマだけにコメント欄も大盛り上がりで、「いや前からBenthamはアレだって言ってるじゃん」とか「ほら見ろOA雑誌は駄目なんだ」とか「いや一般化はできないってば」とか・・・

「公平を期すためにACMや他のコンピュータサイエンスの雑誌にも投稿して見るべきだ。俺は一誌や二誌、オープンアクセスじゃない雑誌でも受理するところが出てくる方に賭けるね」なんて意見も出ていたり。

やるんだったらブログ記事にする前にやるべきだったでしょうね(マテ)。


Davisの実験もそうとう意地が悪いですが(査読者にとっては無駄な負担なわけですし・・・まあそれ以前にそんなもん査読に回すなやって話でもありますが*11)、編集サイドも編集サイドで「応用骨相学」とか全力で怪しい所属の著者の論文で中身が機械生成なのを素通りさせんなよ、と。

コメント欄の指摘にもあるようにどうもOA出版だからじゃなくて単にこの会社のこの雑誌編集部が・・・ってことなんじゃないかとも思いますが。

頑張ってるOA出版社がたくさんある一方で、どうも怪しい人々も混じっていてその人らにOA運動や科学自体の信頼性まで貶められる・・・ってのはあんまり面白くない話です。

Elsevierとメルクの問題みたいなこともあるので*12いちがいに大きければいいとか出版社に帰属する問題と言うわけではなく、学術文献や査読雑誌には信頼性の問題がどこでもついて回るわけですが・・・Davisみたいな方法で怪しいところをあぶり出す、ってのも信頼性を担保する意味で定期的に色々なところにしかけてみればいいのかも知れませんね。

ただやると査読の手間が増えてあれなので、それこそ所属を応用骨相学にしたように査読者には一発で「うわ例のか」と判別できる仕掛けをつけておいてくれれば、査読のない(のに査読誌を名乗る)雑誌を研究者には手間無く見つけられて良いような・・・自分でやる勇気はまるでありませんが。


とりあえず図書館情報学コンピュータサイエンスで査読者になることのある皆さんは"The Center for Research in Applied Phrenology"とアドレスに入っている論文が回ってきたら要注意かも知れません*13

*1:ちなみに購読料を請求するモデルの雑誌でも掲載料もかかる場合はままあります

*2johokanri.jp

*3resume - Philip Meir Davis - Dashboard

*4Home | Bentham

*5Adventure in Open Access Publishing - The Scholarly Kitchen

*6Gunther Eysenbach’s random research rants: Black sheep among Open Access Journals and Publishers

*7:2009-06-14 21:32追記:おっとリンク切れしていますね。見てみたい方はご連絡いただければPDFをお送りしますが、SCIgenのサイトで試してみる方が簡単かも。

*8:骨相学についてはリンク先参照。骨相学 - Wikipedia

*9Adventure in Open Access Publishing - The Scholarly Kitchen

*10Open Access Publisher Accepts Nonsense Manuscript for Dollars - The Scholarly Kitchen

*11:大手出版社では(別にこんな実験対策ではなく、雑誌の国際化対応として)査読に回す前にそもそも英語がちゃんとできているかチェックする人員がちゃんと配置されているそうです。SCIgenの場合英文法はちゃんとしているのでちょっと違いますが、それでも編集でのチェックがあれば普通素通りはしないのではないかとのこと

*12no title

*13:ダブルブラインドだと発見できませんが