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2010-03-24

[][] グラフで見る日本の科学研究の後退(?):日本の2005-2009の論文生産数は1999-2003の水準より減少

本当はトムソンロイターネタでは先にWeb of Scienceの日本語インタフェース導入について取り上げるつもりだったのですが、たまたま用があって調べていたら面白いことに気がついたので先にこちらをアップ。


Impact Factor等の算出元としても有名なトムソンロイターの製品の一つに、Essential Science Indicators(以下、ESI)というものがあります。


Essential Science Indicators は、トムソンロイターデータベースから得られる学術論文の出版数と被引用数のデータに基づき、研究業績に関する統計情報と動向データを集積したユニークなデータベースです。


科学者や研究機関、国、雑誌単位での論文数・被引用数等のランキングを、分野別に見ることが出来るというツールで、自分のような研究評価や計量書誌学を扱う人間はもちろん、研究機関が自分の相対的な立ち位置を調べたりするのにも有益な情報が得られます。


このESIを使うと国ごとの論文発表数、それらの総被引用数および平均被引用数の推移を、1999年分から調べることができます。

なんでか1999-2003、2000-2004等5年区切りごとの数字しか見ることができないのですが、ある国の研究が盛んになっているのか衰退しているのか、それに質あるいは影響力が伴っているか*1、ということをグラフや表にして見せてくれる優れものです。


以上が前置き&トムソンロイターの宣伝*2

ここから本題。


2010.3.1にESIのデータがアップデートされ、2009年分も含めた1999-2009年の11年間のデータが調べられるようになりました。

そこでこの11年間の総論文出版数、上位10カ国の出版論文数の推移(分野問わず)をグラフに示したものが以下の図です。


f:id:min2-fly:20100324192654p:image

図1.1999-2009年の論文出版数上位10カ国の出版数の推移


この手のグラフを描くといつもアメリカが飛びぬけていて他がよくわからなくなるわけですが(苦笑)、アメリカを除いてあらためて描いたものが次の図です。


f:id:min2-fly:20100324192655p:image

図2.1999-2009年のアメリカを除く論文出版数上位9カ国の出版数の推移


まず目につくのは中華人民共和国の大躍進。

2004-2008年期でついに日本・ドイツを抜いて世界2位の論文生産国に上り詰めたわけですが、2005-2009年期でも変わらず伸び続けています。

中国が科学研究の世界で国際的な地位を高めていることは最近よく話題にのぼりますが、グラフにしてみるとあらためて他の先進諸国が伸び悩んでいる中で一国気を吐いている様がわかります。


そしてもう一つ、注目すべきは赤い線で示した日本の動向。

他の各国がわずかとはいえ、年々論文数を増やしているの対し、日本だけは伸び悩んでいるばかりか近年になって漸減傾向を示しています。

2003-2007年期の対前期減少率は0.1%とごくわずかでしたが、2004-2008年期には-1.7%、2005-2009年期には-5.0%と減少の幅はどんどん大きくなっています。

2005-2009年期はリーマンショックの影響もあってか他の各国でも微減傾向は示していますが、最も減少幅が大きいのは日本です。

2003-2007年期まで世界第2位の論文生産国であった日本は2004-2008年期に中国だけでなくドイツにも抜かれていますが、これもドイツが伸びたのではなく日本の論文生産数が減少したためです。

現在でもドイツは2003-2007年期の日本の論文生産数に追い付いていないばかりか、2005-2009年期にはドイツでも論文生産は減少しています。

しかしそれを上回るペースで日本の論文生産数は減少しています。


さらに各国の動向を比較するために、各国の1999-2003年期の論文生産数を1として値を標準化したグラフが図3です。


f:id:min2-fly:20100324193055p:image

図3.1999-2009年の論文出版数上位10カ国の出版数の推移(1999-2003年を基準に標準化

中国の伸びはもう触れたのでいいとして(それにしても1999-2003対2005-2009が2.5ってのは凄いですが)、他の各国も基本的には1999-2003年期の値に比べ2005-2009年期の値は増加している中、日本だけが2005-2009年期の値が1を下回っています。

この5年間の論文生産数は、1999-2003年の論文生産数の水準を下回っているわけです。

ずいぶん前から中国の躍進等によって日本の科学研究の国際的な競争力が落ちているということは言われていたわけですが、実際にはそのように相対的に日本の科学研究が後退しつつあるというレベルの話ではすでになく、絶対的に見ても(日本自身の中で見ても)論文生産数を基準に取った場合、近年の日本の科学研究は衰退期に入って来ていると言えます。

他の国が伸びたのではなく、日本が落ちたのです。


とは言え、論文生産数だけで科学研究を測ろうなんていうのはまあ無茶な話でもあり。

「日本はこの11年間で量(論文生産数)より研究の質の充実に力を入れたんだ!」というような反論もありうるでしょう。


そこでESIで他に調べられる指標としては被引用数を見てみると、日本の論文1本あたりの平均被引用数は過去11年間漸増し続けています(1999-2003年が平均3.85回に対し2005-2009年は5.03回で約1.3倍)。

ただしそちらも絶対的に見れば伸びているという話であり、相対的に見ると論文生産数上位10カ国はだいたいどこも11年間で1.3倍前後増えています。

10カ国全体での伸び率を1とした場合の日本の伸び率は約0.97なので、平均被引用数は伸びていると言っても世界的な被引用数増加傾向の流れの中にあるだけ、量から質に転じたとは言い難いと言えるでしょう*3


あくまでトムソンロイターのESIのデータに依拠した結果であり、厳密なことを言うには他のデータベースでも検証してみる必要や、特許出願数など論文以外の成果も見てみる必要がありますが。

ESIに依拠する限りにおいては、日本の科学研究は相対的な競争力が衰えたというだけではなく、純粋に生産数も落ちているというのは確かなようです。


その原因がどこにあるか、というのはまた別に考える必要がありますが・・・博士後期課程学生の現象とか、教員が研究以外のことに圧迫されて時間がないのでは、とか・・・

それにしても法人化以後の競争の流れで国立大学はどこも研究は力を入れないといけないはずなのに、法人化前の5年の方が法人化後の5年より生産数が多いってのはなんなんでしょうね?*4


政権交代後は科学研究関係の予算はこれまで以上に厳しくなるとも考えられ、さて2006-2010年期にこのグラフはどうなることやら*5

*1:被引用数に質を代替させることには賛否ありますが

*2:なお筆者はこの件について特にトムソンロイターからなんらかのオファーを受けたりということは一切ありません、あしからず

*3:あとは競争的資金の投入などの競争を促す政策の中で、いわゆるホット・ペーパー等の特別影響力の強い論文が増えている可能性はありますが、さすがにそこまで手を出すとブログの範疇を超えるので今回は保留

*4:もちろんこの数字には国立大学以外も含まれますが

*5:もちろん、データ作成時の都合等によるもので案外ころっと増加に転じるかも知れませんが

ponponponpon 2010/03/25 15:16 1990年代以降の各国の経済状況の違いが関係している可能性もありますね。
世界の主要株価指数を見ると、欧米市場は1990年代以降右肩上がりだったのに対し、日本市場は1990年にバブルが崩壊して以降ずっと右肩下がりです。

日欧米の主要株価指数チャート
http://uk.finance.yahoo.com/q/bc?s=^N225+^FTSE+^DJI&t=my&l=off&z=m&q=l&c=

この日本の独り負け状態(経済低迷)が若手の研究熱や予算に大きく響いたのではないかと思われます。
本来なら、研究論文をどんどん発表するはずだった若手が、なぜかコンビニでバイトをしていたりする。それが今の日本なのではないかと…。

min2-flymin2-fly 2010/03/26 01:35 > ponponさん
コメント&情報提供ありがとうございますm(_ _)m


> 世界の主要株価指数を見ると、欧米市場は1990年代以降右肩上がりだったのに対し、日本市場は 1990年にバブルが崩壊して以降ずっと右肩下がりです。

日本が右肩下がりなのは知っていましたが、欧米が右肩上がりだったのは知りませんでした・・・!
ついつい大学であるとか研究の世界の範囲でものを考えてしまいがちなのですが(それすら全然目が及んでいないのですが)、当たり前ですが最初に国全体の経済の状況もあるわけですよね。


> 本来なら、研究論文をどんどん発表するはずだった若手が、なぜかコンビニでバイトをしていたりする。それが今の日本なのではないかと…。

過剰生産の結果とはいえ、この経済状況下でもかなりの国費が投入され養成された若手がくすぶっている・・・ということの問題は深刻ですよね。
その状況が広く知られるようになって研究者志望の学生が減ったことがけっこう影響しているのかな、とも考えています。

sayoshisayoshi 2010/04/03 20:51 歴史系の学生です。
科研費などの研究費獲得に奔走させられて、研究よりも書類作成で忙しい、なんて先生も沢山いるみたいです。
国や大学が無理強いしてて、先生方は欲しくもない研究費獲得の為に研究時間を減らさなければならない、なんて話も聞きます。
ここ5年くらいの話です。

min2-flymin2-fly 2010/04/05 19:31 > sayoshiさん
コメントありがとうございますm(_ _)m

> 科研費などの研究費獲得に奔走させられて、研究よりも書類作成で忙しい、なんて先生も沢山いるみたいです。
> 国や大学が無理強いしてて、先生方は欲しくもない研究費獲得の為に研究時間を減らさなければならない、なんて話も聞きます。

自分の周りでもよく聞く話です。
科研費の場合、先生本人の研究費のほかに大学に間接経費がつくこともあって、本人の希望とは別に研究科として何本出そう、っていうようなことが決まったりもしますしね。
それで論文を書く時間が減ってしまう、というのでは本末転倒でもあるわけですが(汗)

kjhsgkjhsg 2010/04/28 09:55 はじめまして.当方某理系の大学教員ですが
日銀デフレで何もかも疲弊(というか崩壊)の一途をたどっているということだと思います.
数百兆の単位で判断を誤られては,一人一人はどうしようもありません.ほぼ法学部卒の一握りの人間が日本を転落させ,そのメンツの為に徒労に従事している,と感じます.戦前の軍部と現在の日銀は同類に思います.
見てくれを繕うためにすぐ競争らしきことをさせられ,落ち着いた研究ができない.全くもっていい迷惑です.

min2-flymin2-fly 2010/05/02 05:46 > kjhsgさん
はじめまして、コメントいただきありがとうございますm(_ _)m

> 見てくれを繕うためにすぐ競争らしきことをさせられ,落ち着いた研究ができない.全くもっていい迷惑です.

競争の準備のために時間を取られた結果、競争がない場合と比べて必ずしも生産性が上がらない・・・という可能性はありますよね。
このあたり、検討し直す必要性があるのでは・・・ということは今回のデータから言えるかも、と思います(ただ、つくづく単一のソースでしか確認してないのでまずは他も見てみる必要がありますが・・・)

トモくんトモくん 2010/07/03 16:40 一方で、21世紀における日本のノーベル賞受賞者数はアメリカ、イギリスについで3位になり、
ttp://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3933.html
日本の技術貿易黒字比率は2002年にアメリカを抜いて世界一になったという統計
ttp://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa200701/033.htm
もあります。私は近年の日本の基礎科学、応用技術の業績は伸び続けていると考えているのですが、min2-flyさんは中国の論文数が日本を追い抜いたことをもって中国の科学技術力が日本を上回ったとお考えですか?

min2-flymin2-fly 2010/07/05 04:09 > トモくん さん
コメントいただきありがとうございますm(_ _)m
2エントリに同一内容のコメントをいただいたようですが、より内容が関連していると思われるのでこちらにレスさせていただきますね。


> 私は近年の日本の基礎科学、応用技術の業績は伸び続けていると考えているのですが、min2- flyさんは中国の論文数が日本を追い抜いたことをもって中国の科学技術力が日本を上回ったとお考えですか?

技術貿易黒字比率の方は不勉強なところもあり今後考えさせていただきたいと思いますが。
ノーベル賞については、ご存知の通り業績をあげてから受賞までには大きな時間差があるものであり、「現在の」科学研究に関する指標にはならないかな、と思います。
もっとも(今回のデータ分析もとにもしている)トムソン・ロイターが被引用数等に基づいて出している受賞候補リストには現役の日本人研究者の方も入っていますし、そうした卓越した研究の面において日本の動向がどうなっているか、というのは今回の分析では見ることが出来ていません。
被引用数上位0.1%等に絞ってみる、ということも出来るかも知れませんが、・・・あるいは引用関係の詳細を分析して、いわゆるリサーチ・フロントを形成した、重要な論文の中に日本の研究がどれだけ含まれているか分析する、ということも出来そうです(というかやっている研究は既にある気もします)。
それでも、そもそも論文になっていないような業績は見ることも出来ない(田中耕一さんの受賞が典型例ですね)わけですが、まあそのあたりは手法上仕方のないところでもあります。

と、まあ、色々やり方は考えられますが、いずれにせよ何をどうやったところで、論文数や被引用数に基づく分析は科学や研究の動向の一面を捉えるに過ぎません。
なので、それをもって「科学技術力」の総体を量るということも不可能であり(そもそも「科学技術力」なんてものを量ること自体不可能でしょうしいったいそれがなんなのかもわかりませんが)、中国と日本の科学技術力がどうなっているか、ということに関する自分の答えは「わからない」です。
エントリのタイトルで「(?)」がついているのも、エントリ内で幾度も「論文数しか見ていない」、「ESIのデータに基づく結果」、と述べているのもそうした次第です。

とはいえ、論文数が抜かれたことは(これはElsevier等、他のソースでもそうなので)事実でもあり。
どのような量り方をするかにもよりますが、このペースで行くといずれどのような指標を以てしても中国の方が日本より上に出る、という時代も来るのかもなあ、とは思います。


個人的には中国の動向に関しては、日本との比較よりもむしろ学術情報流通の世界全体の動向として(中印はじめ第三世界がグローバルな学術情報流通に本格参入することの影響と言う点で)興味があったりもしますが・・・。
そもそも今回のエントリも中国と比べてどうこうではなく(そこはもうずっと言われていることなので)、日本一国の中で一つの指標でみた場合に減少しているものがあるよ、って話でしたし。

RyoRyo 2011/02/06 11:37 悲観的な見方が多いですね。日本人は本当に・・
もうほぼ完全に発展した日本より、新興国の経済発展が目覚しいという当たり前のことにまで、学力の低下や技術力の低下が原因のような言い方をするくらいですから・・
でもこれは事実でしょうか。いくら勤勉な国民でも上がバカですからね。世界のジョークに、世界最強の軍隊は「米国人の将軍」「ドイツ人の参謀」「日本人の軍隊」で作ると良いというものがあるそうです。逆に世界最弱の軍隊では、日本人が参謀になってます 笑 昔からアホな政策で滅茶苦茶にしてきたことが良く分かりますね。なんとかして欲しいものです。ゆとり教育とか・・

min2-flymin2-fly 2011/02/07 17:13 > Ryoさん
コメントありがとうございますm(_ _)m

> もうほぼ完全に発展した日本より、新興国の経済発展が目覚しいという当たり前のことにまで、学力の低下や技術力の低下が原因のような言い方をするくらいですから・・

日本の伸びよりも新興国の伸びが著しい、ということについて負の要因を探してしまうとすればそれは確かに問題のある態度ですね。
科学研究の分野でいえば論文等の世界シェアの低下についてはまさにそうでしょう(新興国の伸びが大きいので先進国は軒並み下げている)。
ただ、絶対数の低下は(実際に起こっているとすれば、ですが)他国の状況と関係ないので、少し話が違いますね。

ジョークについては、ジョークですから、としか・・・

RyoRyo 2011/02/07 18:25 でも、いつも自身を省みる日本人の姿勢は大好きです。
欠点しか見ない粗探しの場合もありますが・・
戦後発展の1つの要因ですよね。ただ、だからいつまで経っても豊かにはなれないと思ったこともあります。
ギ○シャのように楽観的なラテン系の国家は、物質的な豊かさは日本のほうが上でも、心の豊かさは日本より満たされている気がします。欠点を省みて常に向上を目指す日本人、そしてその結果として得た経済発展と高い技術力。財政破綻まで引き起こしたが、楽観的で心は豊か(?)なギ○シャ人。
どちらが幸せでしょうか。謙遜を美徳とする素晴らしい文化がわが国にはありますが、たまにはプラス思考と自画自賛も必要かと思います^^結構多いですよ。他国に負けない素晴らしさが。

完全に自分の考えばかりで失礼しました。

では。

min2-flymin2-fly 2011/02/08 20:39 > Ryoさん
コメントありがとうございますm(_ _)m

ギ○シャは破綻しているまさにその時期に学会のために行ったことがありますが、観測範囲内では特に悲観的になることもなく明るかったですね。

もっとも、さすがに金融関係者はそう楽観的ではいられなかったのではないかと思いますし、当エントリに関して言えば当事者であるところの(つまり絶賛、窮地に立っている)研究者見習いとしてはそう楽観的でもいられない、というのもあります(苦笑)
数日前にアップした別エントリでも触れたように、特に国立大の研究者の研究時間減が根にありそう、という感じですし。

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