「新ブラックジャックによろしく」6巻

大学での講義を終えて、帰りみちに本屋で見つけ、湘南新宿ラインで人目も気にせず読みふけってしまったのは、『新ブラックジャックによろしく』6巻です。
講義や授業では、下手な脳死臓器移植についての本(活字)を読むよりも、『ブラよろ』の移植編を読むほうが、よっぽどこの問題についての理解が深まる、と紹介しているマンガでもあります。
出たての6巻では、主人公の「上司」で腎臓移植に関わる医師たちの過去が語られていました。とくに「教授」の過去のエピソードは、実在の移植医や腎臓移植の普及に尽力した会社社長のエピソードをうまく組み合わせた感じでした。
あくまでも「フィクション」ですが、日本の移植医療の歴史をちょっとは知っている人が読めば、元ネタとでも言えるエピソードが浮かぶ、この作品は、「臓器移植法改正」論議真っ只中のいまこそ、もっと読まれてもいいな、と思いました。
「取材協力」に様々な方のお名前があがっていますが、脳死臓器移植移植に対して肯定的な立場である「(社)日本臓器移植ネットワーク」(第1巻から)と脳死臓器移植に対して慎重あるいは否定的な立場である「東京海洋大学教授 小松美彦」(第2巻から)のお名前が列挙されているというのは、脳死や臓器移植を考える上でも、とても興味深いものだと思います。他の作品で脳死臓器移植が扱われているのを見つけたり、教えてもらうこともありますが、これだけしっかりと「取材」した上で執筆されている作品はないように思います。とくに、この作品に描かれているような医療従事者の「苦悩」が(「苦労」ではなく)、近年は余り伝えられなくなっていて、だからこそ、「脳死臓器移植」論議が徐々に平板なものになっているようにも思ってしまいます。
そんなわけで、高校の社会科準備室には『ブラよろ』の移植編(1〜5巻)を持ち込んでしまっています。もちろん、この6巻も(もう1冊購入して)持ち込む予定です。

とはいえ、この第6巻を一気に読み終え、ふと我にかえると、「スーツ姿のいい大人」がマンガを読んでいたということに一瞬、恥ずかしさを覚え、すかさずマジメな本を続けて読み始めてしまいました(苦笑)。もちろん、手に取ったのも「脳死」関連では重要文献である『科学』2008年8月号「特集 生と死の脳科学」でした。アラン・シューモンの「脳死」批判の論文や「脳死」をめぐる歴史の解説、ヴァチカンでの「脳死」をめぐる議論についての論考も掲載されているわけで、「脳死」をめぐる「科学」や「宗教」の現在(の一部)を知る上でも興味深い文献です。


新ブラックジャックによろしく 6 移植編 (ビッグコミックススペシャル)

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科学 2008年 08月号 [雑誌]

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