三猫流インプットデバイスレビュー法

山田祥平のRe:config.sysさんによると、マウスの発明者ダグラス・エンゲルバートさんは、「最初から自然なものなど存在しない、それは慣れ親しんでしまっただけのことだ」と言ったそうな。いいこと言うなぁ。

たとえばペンタブレットですが、紙と鉛筆になじんでしまった私たちにとって

ペンタブレットは、離れたところにある画面を見ながら、タブレット上でペンを動かさなければならない。これは、垂直に立つディスプレイを見ながら、水平に動かすマウスよりも、さらに不自然なポインティングデバイスだ。

(以上、上記ページより引用)という感想を持つのが自然です。

しかし、実際にお絵かきでペンタブを使ってる人にとっては、「液晶タブレットなんて、せっかく『見えない手』を手に入れたのに、何で今更それを捨てなくちゃならない?」となるわけです。つまり最初から自然なものなんか存在しないというわけです。

以上のように、入力機器(に限らないかもしれませんが、とりあえず)を評価する際邪魔になるのが「自然」と言う感覚です。自分の感覚を持って「人間にとって自然」と断ずるなど言語道断なのですが、しかしでは一体なにを信じれてどう評価したら良いものやら。(だって感覚的な使いやすさこそ入力機器の大きな機能なんですもの)

整理しましょう。入力機器の評価のポイントは、乱暴に言ってしまえば以下の二点です。

  1. 慣れやすさ
  2. 慣れたときの使いやすさ

前者は、言い換えれば「如何に、今、大衆が慣れているものの応用で使いこなせるか」なのかもしれません。後者はその入力機器が目指す「理想」自体の検証と、その実装がどれだけ理想に近いのか、ということに分解されると思います。

入力機器レビューの界隈では、まがいなりにもマイナーメジャーな私です、自分なりのレビュー方法を持っています。ひょっとしたら何かの参考になるかもしれないので、ちょっとご紹介。

コツ1 レビューは2度書く

対象デバイスを卸したら、まず第一印象をレビューとして書き残します。その日のうちに、使いながらどんどん箇条書きで追加していきます。

その後そのデバイスを2週間以上使ってみて、改めて文章としてレビューを書き下ろします。こちらは文章の流れを組み立てながら、そのデバイスに対する知見を組み立てるように書きます。

最後にこの二つを見比べて、最終的なレビューを作ります。

最初は、使って慣れた後のレビューだけでもいいじゃんと思っていたのですが、ファーストインプレッションって、雑念に邪魔されてない、自分でもビックリするくらい意外に鋭い感覚がメモってあるんですよね〜。

ちなみに、この2週間という期間には根拠はありません。とりあえず十分慣れそうな時間を適当に。、実際「ん〜、、まだちょっと慣れてナインよね」と思うときもあって、そのときは試用を延ばします。また過去のレビューを読み返してみて「違う、そうじゃない!」と思うこともしばしばだから、実際「OK♪」と思ってもまだまだなこともしばしば。

コツ2 そのデバイスを研究する気持ちを忘れない

対象デバイスのことをよく知らずに「これはダメ」「これはイイ」と言うのは単なる傲慢。レビューするなら、まず「よく知ること」から始めます。言い換えれば、そのデバイスを愛して理解する努力を怠らないということ。やっぱ愛ですよ。

バイスを設計した人は、限られた条件のなかで最も良いモノを作ろうとしています。全部達成出来たとは言い難いかもしれませんが、良いモノを作ろうという気持ちを持たないエンジニアはいませんから、それは絶対良いモノでなのです。

しかし、「理想的の良いモノ」とは具体的にどういうモノかは、製品によってまちまちです。どのように持つべきか、どのような使い方を想定するか。何を持って良いとするか、などなど。その「前提」を探り出さないうちに、デバイスへの評価を断じてしまうのは、「ズバッと切り捨ててカッコいい」ではなく単なる謝った評価にすぎません。

たとえばキーボードの打鍵感の場合、「打鍵してみてつかれにくいモノ」と「打鍵してみて気持ちの良いモノ」という二つの「良い」の方向性があります。後者の視点でのみレビューしてしまうと、富士通高見沢のメンブレンキーボードの良さは取り逃してしまいます。

マウスのクリック感の場合、マイクロソフト系のマウスのクリック感は「気持ちよくない」のですが、静音に気を遣ってるためにそうなっているというのを見逃すと「単に粗悪品である」で終わってしまいます。

ポインティングデバイスの形状は特にデリケートで、どれだけ深く握るか、どの傾きで握るか、そもそも握るのか、手を添えるだけなのかによってその形状への評価は大きくかわります。(これは本当に大きい)

だから漫然と使うだけでなく、「どう使えばより良い使い方なのかしら」「何故この子はこんなレスポンスを返してくるのかな」「この子とはどうやって付き合うと幸せになれるのかなぁ」と、常に考えながら試用期間に望むことです。愛を持って、そのデバイスが最も力を発揮する使い方を、探すことが大切です。

コツ3 責難は成事にあらず

批評 = 批判になってしまっている人が多いのは、悪いことをピックアップして取り除けば、残ったモノは良いモノだという幻想が大層甘い味をしているからでしょうか?批判することで、自分はそれよりも高見にいるのだぞ、という優越感に浸っていることも否定できません。曰く「この開発者達は馬鹿だなぁ。俺様だったらもっと良いモノつくれるのになぁ。ホゲ〜」。

この誘惑の密は本当に中毒になりがちで、猫も「禁煙」ならぬ「禁批判したがり」をしようとチャレンジするのですが、知らぬうちに手を伸ばしてしまっています。これは手強い*1

そこで、必殺のアイテムは、十二国記「華胥の幽夢」。この小説の「華胥」というお話を読み返して、「責難は成事にあらず」という言葉の重みをかみしめてから、キーボードに向かいます。



以上、猫のレビューのコツでしたが、参考になりましたでしょうか。最初の「自然とは」の話から大きく話がずれてしまったようですが(^^;) 気にしないことにします(笑)

そうやって出来たモノが本当に良いレビューかは些か検証の余地有りなのですが(^^;) わたし的には結構おすすめです。特に猫的には コツ3 は本当におすすめで、まだ未読の方は、これを機に十二国記を全巻読破すると良いでしょう♪

*1:実際、あたしは重度の批判したがり中毒です。「筆が乗ってる」時ほど、後で見返すと単なる責難だけだったりorz