4月の展覧会紹介


さて冬枯れの時期も過ぎ、多種多様な展覧会の百花繚乱が始まりましたが、なかでも奇抜なこいつは、各所で話題を振りまいていますね。果たしていかなるものなのか。
ちょっと遠いのですが、遠征して参りました。


『大ニセモノ博覧会―模造と模倣の文化史』@国立歴史民俗博物館

http://www.artandscience.jp/column/archives/6099

11月の展覧会紹介

寒くなってくると、重厚なものが見たくなるような。
たまには、どストレートな真正面からの名品群をバッチリ観ておかないといけませんね。


日本国宝展@東京国立博物館
http://www.artandscience.jp/column/archives/6049

吉川浩満著『理不尽な進化――遺伝子と運のあいだ』を推す

――という類の惹句が、昔はよく書籍宣伝パンフレットなどに並んだものでした。
それはまあ単に推す側の著名人の名前を全面に出したいがための事情のほうが大きかったりしたわけですが、本書については、この徒手空拳の自分が、虚空に向かってこう叫ぶしかないな、という気分に今、なっております。


「進化」という概念が、物事を考えようとする現代人の頭の筋道に影響する度合いというのは、実に強大なものではないでしょうか。(同様なものには、矮小なスケールから大きなものまで、挙げていけば「ストレス」だの「イデオロギー」だの、なんだか正確な定義や実体はつかめないけどんとなく社会的合意はある、というようなものがありますね。)


時間軸と平行してなにごとかが進化する、という思想は、明治日本において導入されると、まさに燎原の火のごとく、という勢いで浸透しました。
スペンサーという思想家の考え方(進化=進歩とする)の輸入なのですが、まあこれ、「維新」のそれこそ「イデオロギー」を肯定するにはもってこいの思想でありました。戦いに敗れた旧幕臣のインテリ層の方がスペンサー流社会進化論の紹介に熱心で、これには自らが新体制に奉仕するという多少うしろ暗い事実への理論的補強という意味合いがあったのですが、それはさておき、そこから現在の我々に至るまで、進化=進歩という了解(著者によれば、社会ダーウィニズムならざる社会ラマルキズム)によるさまざまな理解と誤解の思考が積み重ねられてきたわけです。


しかしながら、進化とは実は単に理不尽なものなのだ、という事実は、本書の冒頭で「絶滅」をめぐる論考で読者に対して丁寧に説明されます。


ここを理解すると、後半で詳しく解説される高度に科学的な議論についても、非常に面白く読めることでしょう。わたくしなどは明治期の社会進化論受容にしか興味のないような“歴史脳”(本書著者のわたくしに対する評言)の持ち主ですが、それでもグールドとドーキンスの、進化論における科学的かつ人間的な――武蔵と小次郎のような――丁々発止の果たし合いには、ジャンルを越え、その思想的つばぜり合いに瞠目せざるを得ないわけです(著者の丁寧な解説にも瞠目しますが)。


そして、それがわたくしのような狭い興味の者にも、これが単に科学的・専門的ジャンルの話に終わるものではなかろう、という予感を抱かせることになるわけです。
これは終章における「それは進化/進化論となんの関係があるのか」という問いにつながるのですが、つまりは「人間の問題と進化/進化論とはなんの関係があるのか」という文書のテーマにおける著者の探求の結果は、ぜひ本書をお読みいただいて、最終的に評価いただいたいところです。


久々に献本なるものをいただいたからというわけではありませんが、著者の執筆の苦闘を折々に眺めていた自分としましては、今回ここに紹介して、吉川浩満著『理不尽な進化 遺伝子と運のあいだ』を推す、という短い記録を残しておこうと思ったわけです。
朝日出版社、2014年10月刊。本体価格2,200円。
お得です。


朝日出版社第二編集部ブログ 『理不尽な進化』まえがき
http://asahi2nd.blogspot.jp/2014/10/maegaki.html

朝日出版社  『理不尽な進化』
http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255008035/


※追記――本書奥付には、装丁の鈴木成一デザイン室のほか、担当編集者赤井茂樹氏、DTP担当中村大吾氏の名前も列記されていますが、本書の書籍としての手ざわりと存在感、独特で完璧な組版・索引についても、この完成度に至るまでの三者の努力を大としたいと思います。

9月の展覧会紹介


かつての澁澤展に続くもの、ようやくという感じですね。
こういう企画がふさわしい文人はもう出ないでしょう。


種村季弘の眼 迷宮の美術家たち』@板橋区立美術館
http://www.artandscience.jp/column/archives/5988