訃報


 中平卓馬氏の訃報を誰かのブログを読んでいて知った。ヤフーニュースを調べたら数日前のニュースになっていた。
 2003年に横浜美術館で開催された中平卓馬展で、会期中の金曜日の夜、ご本人が指示しながら若い人を使って、会場の壁に新しい写真をピンで留めて展示しているのを見たことがあった。展示期間中にも展示内容を変えていくというやり方も、中平さんが1960年代にやってきた方法なのだろう。
 何年かまえにNHKで森山大道の番組、NHKスペシャルだかEテレの特集番組だったか、が放送されたその番組でも中平さんが取材を受けていた。100mmくらいのレンズで「植物図鑑」を実践するように、撮りたいものだけに集中して写真に撮っていた。撮っていた、というより、撮りおさめていた。撮っていたのは、空気感やら気分やら全体の雰囲気といったものではなくて名詞で切り取ることができる「被写体」のようだった。
 それでも横浜美術館の展示を見たときに、カラーの縦の新しい「図鑑」よりも、図鑑転向まえの港や電話ボックスがアレブレでとらえられた写真の方にどうしても惹かれてしまった。私は若いころに擦り込まれたそういう時代の写真に惹かれるところから抜け出せないようだ。
 そしてそれよりも長髪のロングコート姿の中平さんが三脚を立てて長玉を付けたカメラをのぞきこんでいる森山さんが撮った有名な写真に惹かれる。あれは時代を切り開いてきた人の肖像写真として、素晴らしいものだろう。

小さな男*静かな声 (中公文庫)

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再読しました。