真鍮の評決[上・下]/マイクル・コナリー(講談社文庫)
ごく一部の作品を除けばマイクル・コナリーの作品は主要な登場人物を介して繋がり、一大サーガのようなものを形作っているが、リンカーン弁護士ことミッキー・ハラーもそんなキーパーソンの一人だ。『真鍮の評決』では、そのハラーとハリー・ボッシュとの意外な接点が明らかにされる。
前作の事件の後、銃で受けた傷の後遺症を紛らわすために使った鎮痛剤の中毒となり、療養とリハビリで一年の月日が流れた。さて弁護士業に復帰しようと思った矢先、ロサンジェルス郡上級裁判所の主席判事から呼び出しを受けたハラーは、旧知の同業者が殺されたことを知らされる。その結果故人が担当していた事件を引き継ぐことになるが、数多くの案件の中に、独立系の映画制作会社を率いる男にかけられた妻の殺害容疑をめぐる事件があった。どこからどう見ても有罪の可能性が高いのに、被告はなぜこうも楽観的なのか。怪訝な思いで、ハラーは事件に取り組むが。
相変わらず現代ミステリとして高水準の作品を連発しているコナリーだが、今回も期待を裏切らない。すべての証拠が有罪に傾く中、自信満々にふるまう容疑者をめぐる謎が魅力的だ。終盤は、やや大風呂敷を広げ過ぎの感がなきにしもあらずだが、陪審員制度のあり方の根本を問うというテーマが大きく浮かび上がってくる展開の読み応えは十分。ハラーとボッシュ、ふたりの主役の係わり合い方も、友情を培い、協力し合うだけのありがちなパターンをあっさりと裏切ってくれるあたりも嬉しい。
[ミステリマガジン2012年4月号]
- 作者: マイクル・コナリー,古沢嘉通
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