王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件/ツイ・ハーク監督(2010・香)


ディー判事(狄仁傑)といえば、ミステリの読者にはおなじみ、在日オランダ大使だったこともあるロバート・ファン・ヒューリックが七世紀の中国(唐代)を舞台に描いた連作シリーズの主人公だが、この名探偵には実在のモデルがいた。ヒューリックの小説が描くのと同じ時代に活躍した同名の政治家で、数々の諫言により女独裁者として知られる武則天にも重用されたと伝えられる。中国では歴史上のヒーローとして昔からもてはやされてきた人物で、ヒューリックが執筆を思い立ったきっかけも、その狄仁傑が登場する古い大衆小説だったようだ。
というわけで、ツイ・ハーク(徐 克)監督の『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』は、ヒューリックの小説と直接の関係はないが、ディー判事ものの読者は興味をそそられるだろう。洛陽の都では、則天武后(カリーナ・ラウ)の即位を祝して、巨大な仏像の建造が進められていた。しかし、それを阻むかのように、仏像の構内で不可解な人体発火事件が起き、その捜査のために、朝廷を批判したかどで投獄されていたディー(アンディ・ラウ)が召還される。補佐役に武后の側近(リー・ビンビン)と司法官(ダン・チャオ)を従え、ディーは犯人捜しに着手、旧友で目撃者のシャトー(レオン・カーフェイ)の証言を手がかりに、地下世界へと潜入するが。
人体発火のトリックを見破り、陰謀を暴いていくディーらの捜査を丹念に描いていくが、やはり後半にかけての武侠映画の面白さの前にはかすんでしまう。ツイ・ハークの復活作ともなれば、やむをえないところで、お得意のワイヤーやCGをフルに使っての大娯楽作に仕上げられている。開巻一番、そんな場所に巨大な仏像なんか立てて大丈夫か、という素朴な疑問が浮かぶが、後半のカタストロフはすでに予告編で織り込み済みのようだ。
日本推理作家協会報2012年7月号]
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