院長の「なんていうか」日誌

みやけゆう歯科医院のオフィシャルページ

雀の宿

みやけゆう歯科医院には
スズメがたくさん来る。
歯を治しに来るわけではない。


三宅の広葉樹好きで木がたくさんあること、
建物の形が中庭を挟んでいるので
身を隠しやすいためではないかと思う。


この医院を始めてからすぐに
中庭でエサを与え始めた。


夏場はあまり来ない。
他にエサ場がたくさんあるのであろう。
しかし冬になると30羽は中庭の木に停まっており、
ウチで越冬しているかのようである。


朝の掃除に三宅が出てくると
玄関前の桜の木にスズメが停まって、
「チィ」と声をかけてくる。
<ごはんちょうだい>
「よしよし」


良く観察すると、
高いところから全体を把握する見張り役や、
いの一番にえさを取りに来るスズメはそれぞれ
決まっているようで、
スズメにも社会があるのだと
当たり前と思いつつも感心する。


エサに困らないためか、
スズメの巣作りが年に2〜3件ある。
家賃でも取りたいところだが、
新築祝いにエサを大目に進呈する。


しばしば巣の近くを通るたびに
親が飛び出してきて
威嚇されるのには「おいおい」と思うのだが、
かわいいヒナの声を聞くのは
なんとも幸せな気持ちを
三宅に与えてくれた。


スズメが多いので事故も起きる。
建物のガラス面が大きいので、
曇りの日など衝突事故を起こす。
これは痛ましいので、夏場は
ガラスにステッカーなどを貼るようにしている。


鳥には付き物かもしれないが、
スズメのヒナが巣から転落してしまう事故が、
今までに何回かあり心を痛めた。
こればっかりは対処のしようがない。


昨年の初夏の昼休みだったか、
歯科衛生士の「さとう」が
「先生!」と血相を変えてやってくると、
手のひらにスズメのヒナを持っていた。
ヒナはか弱く、小さく震えていた。
またもや転落事故である。


「さとうさん、これも自然の摂理だから・・・。」と
三宅が言う間もなく、


「巣に帰したいンですけど。」


彼女の目は使命に燃えており、
もはや「これから診療の時間なのだからダメよ」
とは言えない状況であった。


予約のキャンセルも多かったので許可すると、
「さとう」は昨年辞めた後輩衛生士の「ほり」を従え、
梯子を持ってサッと飛び出て行った。


医院から歩道に向かうエントランスの軒先に
そのヒナが落ちた巣があった。
親鳥は心配そうに近くのプラタナスから
「ピィ」と甲高く鳴いている。


長身な「さとう」でも巣の場所までは
梯子の上に立ち漸く指先が届くほどであったという。
届いてもヒナを手で抱えるほどの隙間はなく、
困った2人は相談に来た。
作戦会議の結果、
診療で使う紙コップの丈を短く切り、
ヒナが収まるようコップを潰して「コンテナ」とした。


苦戦したあげく2人の衛生士は
ヒナを無事巣に帰すことに成功し、
「さとう」と「ほり」に疲労の色はあったが
一つの使命をやり遂げ、
さわやかな顔をしていた。


その後、そのヒナがどうなったのか分からない。
再び落ちた形跡はなかったので、
成長し巣立ったのだと思う。



4月に入って暖かくなるともう、
みやけゆう歯科医院に来るスズメの数は減って
数羽が残るのみとなった。




居ついてエサをせがむスズメが、
あのヒナであってほしいと切に願う。