『CANAAN(1)』(石田あきら、角川書店)感想

CANAAN (1) (角川コミックス・エース 264-1)CANAAN (1) (角川コミックス・エース 264-1)

角川書店(角川グループパブリッシング) 2010-01-26
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百合かどうかはまだ微妙、漫画としては抜群に面白いです

同名のアニメのコミカライゼーション。国際都市・上海で、“共感覚”を武器にテロ組織と戦う少女「カナン」の物語です。アニメ版が百合っぽいという噂を聞いて買ってみたのですが、少なくとも1巻の時点ではそれほど百合百合しくはない感じ。ただ、カナンと親友のカメラマン「大沢マリア」の友情が話の軸になっている点や、敵方に自分の姉に異様に執着する女性キャラがいる点から見て、今後(微)百合展開が出てくることも大いに考えられます。とりあえずこのまま読み続けて、「おお、これは百合だ」と思った時点(があるとしたらその時点)できちんと百合/レズビアン漫画としての感想を書こうかなと思います。

ちなみにアクション漫画としては十二分に面白いです。まず迫力とスピード感あふれる絵が痛快無比。作画担当の石田あきらさんは、「4コマとストーリー漫画が交互に来る」という変わった構成の百合漫画『帝立第13軍学校歩兵科異常アリ!?』で既に遺憾なくその画力を発揮されていますが、この巧さをシリアス物でどかんとまとめて味わえるのは幸せと言うよりほかありません。キャラもそれぞれ魅力的ですし、第5話「拒絶の色」のとある場面での容赦ない展開とかもたまりませんでした。この思い切りのよい残酷さは、ちょっと深見真作品に通じるものがあるかも。百合云々を抜きにしても、先が楽しみな作品です。

米租税裁判所、性別変更手術の費用を税控除対象と認める


【2月4日 AFP】米国で男性からの性転換手術を受けた女性が、手術費を税控除対象に含めるよう求めていた裁判で、米租税裁判所は2日、女性の訴えを認め、性転換手術費は医療費として税控除対象になるとの裁定を下した。
この女性(65)は2001年に2万5000ドル(約230万円)の性転換手術を受け、5000ドル(約45万円)の控除を申請したが、内国歳入庁(Internal Revenue Service、IRS)に却下され、訴訟を起こした。


これに対し税当局は、この女性の手術は純粋に「美容上」のものであり、控除は適用されないと反論していたが、租税裁判所は「申立人が性同一性障害 (GID)に苦しんでいたことは証拠から明らかであり、GIDが重大な精神疾患であることはよく認知されている。またホルモン療法や性転換手術は適切で効果的なGIDの治療法であることも認識されている」とし、税当局側の主張を却下した。

画期的な判決であり、世界中でこうなればいいのにと思います。それにしても税当局の意見、ひどいな。「手術は純粋に『美容上』のものであり、控除は適用されない」って、いつから性別適合手術が美容の問題になったのよ。いや、ひどいと言えば裁判所の「GIDが重大な精神疾患」という言い回しもどうかと思わないでもありませんが。そりゃ、医学的な診断基準ではGIDが「疾患」とみなされていることは事実ですが、問題なのは性別不適合を「重大な精神疾患」にしてしまうこの社会のシステムなんじゃないの? 「自分は性別違和があるけど『病気』なんかじゃない」っていう認識を持つFTMMTFだっていっぱいいると思うしさー。

ともかく、手術費用が無事医療費と認められてよかったです。こんな手術の費用を贅沢代だみたいに言われちゃかなわんと思います。

米国精神分析学会「DADTは軍人に有害」

2010年2月2日、米国精神分析学会(APsaA)会長のPrudence Gourguechon博士が、Psychology Todayのブログで"don't ask, don't tell"(DADT)(米軍の、同性愛者・両性愛者が性的指向を明らかにしたら解雇するというポリシー)の見直しを評価し、APsaAは軍人の福利の面からDADTに反対する立場をとってきたと述べたというニュース。

以下、引用。


APsaAの調査と臨床経験から、DADTはタイムズの社説で挙げられた社会的・軍事的問題に加えて、次のような心理面での悪影響をもたらすと言えます。:

  • 支えてほしいときに故郷のパートナーや友人と自由に連絡がとれないため、ストレスレベルが増加する軍人が見受けられる
  • 性的指向を隠すことによる感情面での負担が、記録により十分立証されている
  • DADTのもとでの生活は孤立感を深め、ストレス障害への脆弱性を高める

APsaA's research and clinical experience adds the following psychological ill effects of DADT to the social and military problems mentioned in the Times editorial:

  • Increased stress levels are seen in soldiers who are not able to freely access partners and friends back home for needed support
  • The emotional toll of keeping sexual orientation hidden is well-documented
  • Increased isolation of those living under DADT leads to greater vulnerability to stress-related disorders

なお、APsaAは2009年1月にもDADTについて以下のような意見を提出しています。


外国の軍隊やアメリカ国内の警察および消防署のデータのみならず、経験にもとづくエヴィデンスから、レズビアンやゲイ男性やバイセクシュアルが性的指向を公表して軍役につくことが混乱を招くという証拠はないとわかっています。APsaAは、1994年に650節10章が立法化されて以来、このポリシーが個人としての軍人や、軍隊や、合衆国の社会にもたらしてきた悪影響を認識し、嫌悪しています。長年にわたる心理学的な調査と経験から、性的指向を隠し続けることが、大規模な精神的コストとなることが判明しています。そういうわけで、従軍中の全職員に性的指向についての自己開示を禁じるというのは、彼らのメンタルヘルスや福利に対して不要な害を及ぼします。それはまた、軍のメンタルヘルス担当者に倫理的ジレンマを引き起こすことにもなります。

Empirical evidence, as well as comparative data from foreign militaries and domestic police and fire departments shows that when lesbians, gay men and bisexuals are allowed to serve openly there is no evidence of disruption. APsaA recognizes and abhors the many detrimental effects the policy has had on individual service members, the military and the United States society since the enactment of Title 10 section 654 in 1994. Years of psychological research and experience have shown the extensive mental toll of keeping one's sexual orientation hidden. Mandating a ban on self disclosure of sexual orientation for personnel in uniform is thus unnecessarily harmful to their mental health and well being. It also creates ethical dilemmas for military mental health providers.


政府の現行のポリシーでは、レズビアンやゲイやバイセクシュアルの軍職員はうっかり性的指向を開示してしまわないよう常に警戒していなければなりません。彼らは故郷から離れているときも、同性愛者・両性愛者だと見つかってしまうことを恐れて、パートナーや恋人に電話やメールで公然と連絡をとることができません。緊急事態に突入したと知らされても、パートナーの名前を、軍の書類の「最近縁者(遺言を残さずに死亡した人の財産相続権を与えられる近親者)」の欄に書き込むことはできません。このようなピンチや緊急事態では、彼らは異性愛者と同等には保護されず、支えを求めて家族や恋人に連絡することも制限されて孤立しています。
Under the current government policy, lesbian, gay and bisexual military members must be vigilant not to inadvertently disclose their sexual orientation. They are unable to contact their partners and loved ones openly via phone or e-mail when away from home for fear of being discovered. On military forms they cannot list their partners as "next of kin" when they are to be notified in an emergency. At such specific times of distress or emergency, these individuals are isolated and restricted from having equally unguarded and honest access to the support of their loved ones and families.

日本でもよく聞かれがちな「同性愛も両性愛も個人の勝手、だが人目につかないところでやれ」論の身勝手さ・残酷さがよくわかる意見です。前線で生命の危機にさらされているときでさえパートナーの存在を隠し続けねばならず、死んでも財産も遺せないだなんて、同性愛者/両性愛者の命は使い捨てですか。今回のPrudence Gourguechon氏の発言が、マレン米統合参謀本部議長パウエル元国務長官の発言と同じく、DADT撤廃への追い風となってくれたらいいと思います。

単語・語句など

単語・語句 意味
APsaA The American Psychoanalytic Association、米国精神分析学会
revise 見直す、見直して改める
serviceman 軍人
editorial 社説、論説
ill effect 悪影響
toll 犠牲、代償、被害、代価
well-documented 文書[記録]により十分に立証された
Empirical 経験による
disrupution 混乱、崩壊
detrimental 有害な、不利益の
enactment 立法化
extensive 広範囲な、大規模な、多数の
personnel 人員、全職員
vigilant 絶えず警戒を怠らない、油断のない、用心深い
next of kin 近親者、(遺言を残さずに死亡した人の財産相続権を与えられる)最近縁者
distress 危難、災難、難儀、ピンチ

パウエル元国務長官、DADT廃止を支持

2010年2月3日、米国のパウエル元国務長官が、米軍の"don't ask, don't tell (DADT)"ポリシー(米軍の、同性愛者・両性愛者が性的指向を明らかにしたら解雇するというポリシー)撤廃を支持する意向を表明したというニュース。

以下、パウエル氏の発言です。


「‘don't ask, don't tell'法が議会を通過して以来ほぼ17年が経過し、人々の考え方や状況が変わってきています」パウエル陸軍大将はオフィスで声明を述べた。彼はさらに付け加えた。「今週マレン統合参謀本部議長が上院軍事委員会に提示した新たなアプローチを完全に支持します」
“In the almost 17 years since the ‘don’t ask, don’t tell’ legislation was passed, attitudes and circumstances have changed,” General Powell said in a statement issued by his office. He added: “I fully support the new approach presented to the Senate Armed Services Committee this week by Secretary of Defense Gates and Admiral Mullen.”

「マレン統合参謀本部議長が上院軍事委員会に提示した新たなアプローチ」というのは、2月3日に「みやきち日記」で紹介した、「同性愛者の軍勤務を是認する」というやつですね。パウエルさんのこの発言、DADT撤廃に向けてさらに追い風となりそうです。

単語・語句など

単語・語句 意味
United States Senate Committee on Armed Services アメリカ合衆国上院軍事委員会

ゲイとレズビアンの映画制作者が第1回シンガポール短編映画賞を受賞

2010年1月、第1回シンガポール短編映画賞(Singapore Short Film Awards)を、ゲイとレズビアンの映画制作者が受賞したというニュース。

まず、最優秀脚本賞に輝いた『Threshold』は、警察による麻薬取り締まりのおとり捜査にかけられたゲイ男性の物語。トレイラーはこんなです。

この作品は、Loo Zihan監督がシンガポールの南洋工科大学(Nanyang Technological University)在学中に撮ったもの。報道によると、Zihan監督は、卒業生総代の告別演説の中で、大学側から『Threshold』のポスターを変えろと言われたと述べているとのこと。この映画のポスター(元記事の真ん中へんにあります)は学位授与式の間に飾っておくには「不適切」であるとみなされたんだそうです。なお、Zihan監督は現在、シカゴ美術館附属美術大学修士号を取得しているところだとのこと。

次に、最優秀監督賞、最優秀フィクション賞を受賞した『Dirty Bitch』はこんな作品です。

こちらは閉所恐怖症になりそうに狭いシンガポールのアパートを舞台とする映画だとのこと。トレイラーを見る限り、ラップに乗せてたたみかけられるポップさと残酷なイメージの取り合わせが非常に面白い感じ。この映画は、これまでシンガポールロッテルダムバンクーバーでの国際映画祭で上映されているそうです。

『Threshold』も『Dirty Bitch』も面白そうで、全部ちゃんと通して見てみたいと思いました。日本でゲイ映画・レズビアン映画というと反射的に(1)欧米か、またはせいぜい日本の作品で、(2)2時間ぐらいあって、(3)映画館で1800円取って上映されているものを連想されてしまいがちだと思うんですが、当たり前だけどそれだけがゲイ/レズビアン映画というわけではないんですよね。今後こういうショートフィルムがもっとどんどん作られ、流通するようになってくれたら嬉しいなと思います。

単語・語句など

単語・語句 意味
headline-grabbing 《米俗》ニュースになる
entrapment おとり捜査
inaugural 最初の
Nanyang Technological University 南洋工科大学
valedictory 《米・カナダ》卒業生総代の告別演説
deem …だと思う、考える
convocation 《インド》学位授与式
School of the Art, Institute of Chicago シカゴ美術館附属美術大学
claustrophobic 閉所恐怖症の、閉所恐怖症を引き起こす、きゅうくつで閉所恐怖症になりそうな
flair 直感力、鋭い眼識、スマートさ、あかぬけていること、粋
goriness 凄惨さ、むごたらしさ、残虐、流血