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みやきち日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-02-11-Thu

「ゲイ男性は『巣の中のヘルパー』役をつとめることで一族の遺伝子存続に貢献」進化心理学者の研究で

進化心理学の研究で、「ゲイ男性は直接子供をつくらなくても、甥や姪の世話をつとめることで、一族の遺伝子存続に貢献してきた可能性がある」という結果が出たというニュース。

この研究を行ったのはカナダのレスブリッジ大学のPaul Vasey氏とDoug VanderLaan氏。サモアで「ファファフィネ」(fa'afafine)と呼ばれる、男性を性の対象とする男性たちについて数年間の調査をおこなった結果、このような結論に達したとのこと。

研究対象にサモアが選ばれたのは、この地ではファファフィネが男性でも女性でもない特定の性として広く認識され、受け入れられているからだそうです。「男性」「女性」「ファファフィネ」の境界が明確なため、研究サンプルとして線引きがしやすいということみたい。なお、ファファフィネは女性っぽい言動をとる傾向があり、性的パートナーとしてはもっぱら成人男性だけを選ぶとのこと。

先行研究から既に、ファファフィネはサモアの女性や男性よりも進んで甥や姪の世話をするということが報告されています。ファファフィネたちは甥や姪の子守をしたり、美術や音楽を教えたり、医療費や教育費を払ってやったりすることをいとわないのだそうです。今回の研究の狙いは、こうしたファファフィネたちの利他的行動が、子供全般を利しているのか、それとも自分の血縁を利しているのか調べることにありました。

利他的行動が血縁の利益になるというのはつまり、血縁選択説ですよね。念のため、Wikipediaからちょっと引用しておきます。

血縁選択説(けつえんせんたくせつ、または血縁淘汰説)とは、進化生物学における重要な概念の一つで、動物の利他的行動を自然選択説で説明することを可能にした理論である。この説が提唱される以前の自然選択説では、社会性昆虫における不妊の階級の存在や動物が見せる利他的行動が困難であったが、これを遺伝子の伝達は直接に子供を作ることだけではなく、親戚を増やすことでも可能であることを根拠に説明し、行動生態学の基礎を築いた。要約すれば血縁選択説は「利他行動が、それに関わる遺伝子を集団平均よりも有意に高い確率で持つ可能性のある他個体へ重点的に差し向けられる場合に、利他的行動は進化する」と予測する。

血縁選択説 - Wikipedia

任意の遺伝子を共有している可能性のある個体は自分の子だけではない。少なくとも自分の親のどちらかには含まれているし、兄弟や親戚にも含まれている可能性はある。その確率は血縁が近いほど高い。そこで、その確率をもって、血縁の近さを示すものと考えてよい。これを血縁度という。

したがって、ある遺伝子が発現することで、その個体が子供を作ることをあきらめて、その代わりに多数の兄弟姉妹を生き延びさせるとすれば、遺伝子は兄妹たちの体を通して次世代に伝えらる可能性がある。こう考えれば、単純に個体が残した子供の数だけで成功かどうかを判断する適応度の概念では不十分である。その代わりに、生き延びる親戚一同の数を、それぞれの血縁度を勘案しつつ数える必要がある。

血縁選択説 - Wikipedia

Vasey氏とVanderLaan氏が先週オンラインの「Psychological Science」誌で発表したところによると、今回の研究では血縁選択説を強固に支持するだけの結果が得られたとのことです。つまり、サモアのファファフィネたちは、ヘテロ男性や女性に比べ、子供全般に対する利他的行動が少ないとわかったのだそうです。ファファフィネは自分では子供を持たない代わりに、ファファフィネがいなかったら存在しなかったであろう甥や姪2人の生存に貢献しているとのこと。ファファフィネのこうした傾向は、リソースを効率的に、かつ正確に血縁に対して振り向け、進化の可能性を増やすためにあると両氏は述べています。

この研究がサモアの外でも意味を持つかという問いに対して、元記事は「イエスでもあり、ノーでもある」としています。サモアと西洋社会では文化が大きく違いますが、Vasey氏とVanderLaan氏は、サモアの共同体主義的な文化は、何十億年も昔に男性同性愛が進化によって生まれた環境を示していると主張しているとのこと。要するに、独身のおじという存在が世界に適応できていないのではなく、現代の西洋社会が独身のおじを歓迎しない方向に発展したというのが両氏の意見なんだそうです。

ここからは個人的な感想になりますが、これってゲイバッシングの根拠としてよく持ち出される「ゲイは子孫を残さないから不自然」説に一矢報いる研究ですよね。遺伝子というのは何も自分だけの完全オリジナルなものではないのですから、何が何でも「自分で」異性とまぐわって「自分の」子供を作って「自分で」育てることだけが子孫繁栄だということにはならないはず。血縁度の高い個体の生存を助けることで、結果的に自分と同じ遺伝子のサバイバルの機会が増えるのなら、それだってひとつの有効な戦略なわけで。

ていうか、長い人類史の中では、「全員が全員自分の子供を持ってせっせと育児していたら、共同体全員が生き残れなかった」っていう状況も発生していた/いると思うんだわ。長野のおじろく・おばさという制度があった村みたいにね。同性愛者が一定の率で生まれてくるのは、ひょっとしたらそうした状況での遺伝子の生き残りのためなのかもしれません。「とにかく直系の子供を作って『遺伝子を残』せ! そうしないやつは『自然の理』に反している!」みたいなのは生物学のねじ曲げというか、単なる当世流行のイデオロギーにすぎないんじゃないかと思ったりしました。

単語・語句など

単語・語句意味
evolutionaryevolutional、進化の、発展の、進化論の
eon(おどけて)非常に長い期間、計り知れない長年月、永劫、10億年
discernible認められる、[人に]認識できる
kin selection血縁淘汰、血縁選択
altruistically利他的に
perpetuate永存[永続]させる、不朽[不滅]にする
avuncularおじのような、おじのように優しい
evolutionary psychology進化心理学
demarcation境界、境界設定、分離、区分、区画
allocate割り当てる、分配する
dissociation分離、解離
comunitarian共同体主義的な