「地球温暖化戦争」

地球温暖化戦争

地球温暖化戦争

省エネ家電やエコグッズは大流行ですが、そうは言ってもCO2の排出は止められず、京都議定書の90年比6%減など夢に消えそうな今日この頃。おまけに中国などの新興国がどんどんエネルギーを消費して、世界はますます温室効果ガスで埋まっていきます。


「こんなことで大丈夫なのかなあ」


漠然とした不安を抱えつつも、日々はそう変わらないので何となく過ごしてしまうのですが、そんなたるんでいた気持ちにカツを入れてくれたのが本書でした。


一般的な温暖化関係の書類ですと、「氷が溶けたり、熱膨張で海面が上昇」とか「植生が変化して農業に打撃」とか「熱帯の病気が現在の温帯地域にまで広がる」とか、そういう説明が多いと思います。それはそれで十分に怖いのですが、著者はさらに、温暖化がもたらす国際間の将来像を大胆にシミュレーションして書き出します。


たとえば、「ヒマラヤの氷河(水資源)が枯渇し、パキスタンとインドが核戦争に突入する」ですとか、「メキシコからの難民を遮断すべく、アメリカが国境線を封鎖する」ですとか、最悪は、「正のフィードバック効果により文明は崩壊し、人類は極地域に数億人を残すだけとなる」ですとか。


著者はこういう未来もありうる、と提示しているだけで、断言しているわけではありません。筆致はあくまで冷静です。しかし、それだけに怖いです。また、軍事アナリストである筆者は、政治的合意に対して現実的な見方をしています。国家間のエゴや駆け引きの前で、温暖化対策は遅々として進まず、国内においても、既存業者や消費者の反応を恐れて新エネルギーの思い切った導入ができない……。結果として取り返しのつかないことになってしまうのではないかと。


本書では今まさにタイムリーな「国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」についても言及していますが、希望は持ちつつも期待はしていないという論調です。どうも結果的には予想通りになってしまったようですが……。


ただ、著者はいたずらに危機を煽って世の中をシニカルに見下す人ではありません。大きな危機を認識しつつも、希望を捨てずに本書を締めくくっています。


「いま、われわれは最終試験に臨もうとしている。(中略) この試験にパスする可能性がある時期に、この試験に臨めたとは、われわれ人類はなんという強運の持ち主であろう」


僕も今この時代に生まれた世代の一員として、未来に希望をつなぐべく全力をつくさなくては、そう決意させてくれる良書でした。


なお、日本についてはあまり触れられていません。イギリスと同様、核武装して島国に立てこもり、なんとかやっていけるだろう、という一文があるくらいです。核武装はともかく、日本の食料自給率で立てこもり可能とは思いにくいですが……。訳者あとがきでも書かれてますが、日本は著者の守備範囲外のようなので、しょうがないんでしょうね。