「鉄は地球を救うか?」

mizuyama-oyster-farm2010-10-12

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前回、三陸沖が世界三大漁場であることのメカニズムをご紹介しました。


ところが、丁度それを書いている夜に、NHKTVで「日本列島 奇跡の海 新発見 知床流氷の謎」が放映されたのです。

なんたるタイミング!


九時からのゴールデンタイムでしたのでご覧になった方も多いと思われますが、カキじいさんは興奮と嬉しさで、しばらく眠れませんでした。

皆さんはどうでしたでしょうか?


三年前の日本水産学会のタイトルは「森は海の恋人か?」

今年九月の『森里海連環と地球的課題』シンポジウムのメインテーマは、「鉄は地球を救うか?」というものでした。


二十二年前、北海道大学水産学部の松永勝彦先生を突然訪ね、海の生物生産と鉄との関わりを学んだカキじいさんは、それからずっと『鉄』というものを追いかけてきました。「鉄の科学」が本質であることを確証したためです。


当時、鉄の科学に懐疑的だったのは意外なことに、水産学の生物学者たちでした。

昨夜のテレビ放映でも語られていましたが、外海の鉄の濃度は海水1リットルあたり1/1,000,000,000グラムという極微量です。鉄の分析化学のプロでないと計測できない、極めて難しい世界なのです。

つまり、「分析化学の眼をもって生物を視る」という境界学問をやれないと、その謎は解明できないのです。


昨夜のテレビに登場した白岩孝行先生も、北海道大学低温科学研究所の氷の研究者です。

もう一人、クリーンルームの中で鉄の濃度を分析していた姿がチラリと映っていた西岡純先生は松永先生の弟子で、分析化学者なのです。

放送の中の、外海の鉄分濃度分布などを示した図やグラフの下に小さく「データ:北海道大学 低温科学研究所 西岡純准教授」と出ていましたが、普通はあまり気に留めないのではないでしょうか。しかしデータに基づくこれらの図やグラフは、分析化学なくてはありえないのです。

水産生物学者と分析化学者の間の学問領域争い、言ってみれば「縄張り争い」があったため、鉄の化学は遅れたとカキじいさんは考えています。

学問の分野も「縦割り」が根強いのですね。



もう十五年も前になりますが、気仙沼湾の生物生産とそこに注ぐ大川との関わりを、北海道大学水産学部海洋化学講座の研究チームが調査に訪れました。

リーダーはもちろん松永教授です。その時、大学院生で参加していた一人が現在准教授の西岡純先生です。


河口から外海まで、約十地点で、上・中・下層の採水、水温、比重などの計測をします。微量の鉄はどこにでも存在しますから、それらに汚染され影響されないように細心の注意が必要です。

朝から昼まで海で採水し、午後からは白衣に着替えて深夜までクリーンルームでの処理が続きました。


その結果、気仙沼湾で水揚げされる約二十億円のカキ、ホタテ、ワカメ、コンブ、アワビ、ウニなどを育てる養分の殆どが、湾に注ぐ大川の河川水によって上流の森からもたらされていることが判明したのです。


松永先生の気仙沼湾での調査研究の経験が、今回の「アムール・オホーツクプロジェクト」のベースになっていたのです。



「鉄の科学」、、、これを学ばないと、環境問題の本質は語れない。もう学会で「、、、、、、、か?」というタイトルが付くことはないでしょう。


畠山重篤

「カキじいさん、森のお話聞かせてよ!」(舞根湾)

森が消えれば海も死ぬ―陸と海を結ぶ生態学 第2版 (ブルーバックス)

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鉄が地球温暖化を防ぐ

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