雑種路線でいこう

2006年12月11日

課題は50年か70年かではなく死蔵と永久延長ではないか

著作権保護期間の延長問題を考える国民会議」に行ってきた.シンポジウムの概要は報道されるだろうから詳述しない.議論を通じて感じたのは実は賛成・反対ともに50年か70年かという点に関して確固たる根拠がある訳ではなく,要はコンテンツの利活用促進と保護強化とで,どちらに重心を置くかという議論なのだろう.

噛み合っていない議論には不満もあったが,こういった平場に延長賛成派の方がご参加いただけただけでも画期的ではないか.三田誠広氏が文藝家協会として作家の死後50年未満であっても絶版した本を青空文庫に収録できるよう,パブリックドメイン化を希望する権利者について仲介するという提案をされたことが興味深かった.青空文庫から著作権の切れていない作品がリリースされるようになれば,かなりエポックメイキングな出来事という気がする.*1

議論を聞いていて不満だったのは,延長賛成派は報酬請求権による遺族の生活保障の議論に終始し,延長反対派は差し止め請求権によるコンテンツの死蔵や二次利用の阻害を中心に論じていた点である.問題がその点に絞られているのであれば,報酬請求権のみ70年に延長する代わりに二次利用に対する差し止め請求権は存命中のみとしてしまってはどうか.孫の代まで面倒みたいという延長派の主張に沿いつつ,著作権強化による創作活動の阻害を最小化できる.そもそも遺族の誰もが差し止め請求権を持つ仕組みが,何ら創作意欲に資する理由が思いつかない.本人の存命中に意図に反する二次利用に対して差し止め請求権を認めることには合理性があるし,死後も故人を冒瀆する二次利用に対しては人格権に基づく差し止め請求権を認めればよい.

延長反対派の傾聴すべき主張として,70年に延長した次は90年,100年と永遠と延長されてしまうのではないかという懸念がある.米国ミッキーマウス法揶揄されているくらいだから,確かにその公算は高い.差し止め請求権を含めた強い権利が,今後も継続的に延長されることがあれば,そのデメリットは計り知れない.つまり延長に賛成するのであれば,20年の延長だけでなく,その後の延長も想定した上で理屈を組み立てる必要がある.

仮に延長の弊害が創作活動の阻害に限られるとすれば,保護強化とバランスを取るには二次利用の制限が創作を阻害することに対して手当をすればよく,極端にいえば作品自体からの収益に対する報酬請求権は永久に認める代わりに,差し止め請求権や隣接権は存命中などに制限するといった手もあるのではないだろうか.

正直なところ著作権保護期間が50年でも70年でもどうでもいいのだけれども,これまでのように米国に押し切られて渋々受け入れるという流れではなく,もうちょっと日本として戦略を持ち,損得を計算し,周辺諸国との対話のなかで,きっちり物事の折り目をつけていく契機として,今回の問題は興味深い題材という気がしている.

*1:現時点で青空文庫がこの話に乗れるかというと政治的に難しそうだけれども,パブリックドメインにすること自体に必ずしも青空文庫の協力は必要ではない.文藝家協会主体で絶版書籍パブリックドメイン化へ向けた権利処理の枠組みができると面白いのではないか

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