雑種路線でいこう

2007年01月05日

[] 公僕が牙を剥くとき

月に響く笛 耐震偽装

本書は耐震偽造事件で会社を失ったイーホームズ 藤田社長による手記である.とてもリアルだったので半日で一気に読んだ.本書には役人が行政の無謬性を堅持し,出口のない問題の露呈を回避すべく,偽のシナリオで問題の幕引きを図るためにスケープゴートを陥れていく様が克明に記録されている.片方の当事者による告発であることを割り引いて考える必要があるが,出てくる手口など,いかにもありそうなことばかりだ.真実がどうであるかは別として,仕事で役所と付き合いがあったり,特に許認可や行政指導が商売と大きく関係するような方々は,こういうこともあるのかも知れないという心構えのためにも,本書を読むことをお勧めする.

内部リーク欲しさで権力による世論誘導に加担する大新聞,片やスキャンダル暴露を商売にしながら権力者に都合の悪い記述を削らなければ手記を出版できないと腰が引ける大手出版社,簡単に理解できる単純な構図をメディアに望む視聴者など,小役人の心ない行動の背後には構造的で深刻なマスメディアの問題がある.藤田氏が「きっこの日記」を頼りにしている点について毀誉褒貶が激しいけれども,本書を読めば藤田氏がマスメディアを信用できなくなった理由が良く分かる.一方で大手出版社が刊行を断り,それを堂々と前文に書いているような本が書店に並んでいることについて,諸々不穏な動きはあれど日本はそれなりに自由な国なんだなということを再確認した.それなりに自由な国で,大手媒体ばかり権力に飼い馴らされるというのは,活字メディアが緩慢に自殺しつつあるということだろうか.それとも以前から活字メディアは魂を売っていたけれども公知となる機会が少なかっただけなのか.いずれにせよ活字メディアは緩慢な自殺への道を歩んでいるようにみえる.その後釜が「きっこの日記」やYoutubeかというと,それはそれで違う気がするのだが.

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