2007年12月12日
情報サービス産業の神話と展望
情報サービス産業が3K7Kといわれて若者から敬遠されているとか、受託開発からパッケージやSaaSに移行すべきだといった主張を聞く機会が増えた。確かに3K7Kといった辛い現場もあるだろうが楽しい前向きな世界だってあるし、仮に情報サービス産業が構造的な問題を抱えているとして、因果関係を整理しないことには堂々巡りの議論にしかならない。
3K7Kの遠因として人月商法と重層的な下請け構造が槍玉に挙げられるが、人月商法は欧米でもTime and Materialとして一般的で日本の専売特許ではないし、重層的な下請け構造だって情報サービス産業の悪弊というよりは日露戦争後から我が国で広範に観察される産業構造で、職業倫理や雇用規制に深く根ざしている。
パッケージやSaaSの利益率は確かに高いが、カスタマイズや展開といった業務を必要とするので受託開発がいらなくなることはない。それに受託事業と製品事業とで業態は全く異なる。同じ酒を扱うといって居酒屋チェーンと酒類メーカーを比べるようなものだ。
日米の情報サービス産業で異なる点を探せば確かにある。日本では要件定義からSIベンダに丸投げする場合が多く、重層的な下請け構造がコミュニケーション・コストを吊り上げ、パッケージでできる案件まで手組みで仕上げることが多い。マクロで見ると車輪の再発明が横行し生産性は低く国際競争力に乏しい。
これは情報サービス産業の問題ではなく、本質的にはユーザー企業や労働市場の問題だ。パッケージを積極的には使わず手組みで仕上げようとするのは、ユーザー企業が長期雇用や業界内の熾烈な競争を背景に独自のビジネスプロセスで最適化されており、情報システムに歩み寄った業務の見直しに消極的である上、受託するSIベンダも手組みで提案した方が儲かるからだ。
多くのユーザー企業が要件定義からSIベンダに丸投げするのは、きっちり要件定義できる人材を内部で抱えておらず、中途で採ろうにも魅力的なキャリアパスを用意することが難しいからだ。多くのSIベンダが重層的な下請け構造に頼るのは、案件には繁閑期があるのに雇った従業員は切れないせいでもある。重層的な下請け構造はトヨタも一緒だがトヨタの自動車は世界中で売れているし、本当に問題なのか。
製造業では大きな問題にならなかった重層的な下請け構造が情報サービス産業で問題となるのは、製造業の下請け構造が部品納入という製品事業であるのに対し、情報サービス産業の下請け構造が役務提供であることだ。部品納入企業の生産性が向上すると差額分は内部留保となり再投資にまわるが、ソフトウェア開発の生産性を高めても水増し請求するのでない限り中長期的に利益率は悪化してリスクが増大する。
製造業の下請けでは生産性向上に投資した企業が継続的なレントを期待できるが、情報サービス産業では生産性向上によるレントが一瞬しか発生しない割に工数見積もりの精度が悪化するなどリスクが大きい。その結果、新技術の研究や従業員の教育に投資するより、販管費を抑え、マージンを増やし、技術者の稼働率を高めた方が経営戦略として合理的な場合が多いのではないか。(つづく)
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