雑種路線でいこう

2008年06月17日

[] ネット規制論議はこれからが本番

先日の参議院内閣委員会での議論はid:inflorescenciaさんが的確にまとめて下さった。法文だけでなく、国会答弁でここまで緻密に議論できたことは本当に良かった。国会が閉じれば役所は人事異動シーズンで、この問題も束の間の平穏を期待していたのだが、アキバ通り魔事件のせいで突如として予告検知の話が降ってきてしまい、今週から議論が始まる。

個人的には予告.inで十分じゃん、全てを110番で受けたら電話代や人件費の面で税金の無駄だから、もっと効率的なワークフローは考えようぜ、以上!で、官が来年度予算で云々といってる間に矢野君が2時間で一仕事してるんだから、やっぱ民間自主努力は正しい方向だよといいたい。まああと、セキュリティ方面って元気な若手がいっぱいいるんだから、未踏っぽいスキームで優秀なハッカーが遊べて育つ仕組みをつくれれば面白いかも。

さて青少年ネット規制法の附則で違法情報対策に早急に手を付けることが決まっている訳だが、個人的には違法情報対策のために何らかの法律をつくるのは無理筋で、原則として一般法で措置し、追いついていないところは個別に見直すべきという気がする。プロバイダ責任制限法を刑事に拡張するかどうかも、誰が何について如何なるプロセスで違法を認定するか等、なかなか面倒そうな議論を要する。

ひとことに違法情報といっても児童ポルノのように配ること自体が違法のものから、売春や麻薬・拳銃売買といった違法行為に付随するもの、刑法に於ける猥褻・名誉毀損、著作権法違反といった言論の自由とデリケートに絡みそうなものまで様々で、十把一絡げに違法情報と位置づけて何かしら特別な法律で捌くには無理があるのではないか。

それと、真面目に児童に対するナンパとかネットいじめに手を突っ込もうとすると「通信の秘密」との兼ね合いに直面せざるを得ない。この辺は高橋郁夫先生が数年前から手を付けていて、5月23日に行われた「次世代の情報セキュリティ政策に関する研究会」の資料8-5から8-8くらいまでが非常に参考になる。通信の秘密って特に9.11以降、国際的にも気味悪い論点ではあるんだけど、避けていると却って状況に押し流されそうだから、ここは難しくても歴史を踏まえつつ論点を整理して、原則を打ち立てることが重要だ。明治時代の電信法から解釈が分かれる領域だから、なかなか深入りすると面白そうだよ。

いろいろと判断を要するところで「通信の秘密」の他にも、違法情報に対する政策目標の優先順位付けという難しい問題があって、ぶっちゃけ「違法情報は消したけど犯人を取り逃がしました」と「犯人を捕まえるために違法情報放置して泳がせました」かという究極の選択を誰がするのかという問題がある。警察はこれまで犯罪捜査を優先し、かつ、ネット犯罪を優先的には取り締まってこなかったので、結果として違法情報の削除が後手に回ったのだろうという現状がある。最近になってネット上の書き込みに対して過敏になっているけれど、彼らがちゃんと取り締まっていれば、これほど違法情報は蔓延していなかったはずだ。

情報は消さないけれど日本国内のネット利用者が見えないようにブロッキングしてしまえ、という議論もあって更にややこしい。何故か高市議員の仕切っていた与党の児童ポルノPTに呼ばれたときは、DNSブロッキングではホスト単位なので巻き添えが大き過ぎるし、中国パキスタンのやっているようなBGPとURLフィルタリングとの合わせ技は日本だとISPが乱立していて難しいし、オペチョンで世界中Youtubeを止めてしまった今年2月のパキスタンテレコム&PCCWのような例もある、という説明でお茶を濁した。

ではNTT再々編を機にISP護送船団行政を止めて、日本アクセスプロバイダASだと片手で数えられる程度の数に減ればブロッキングをやっていいのかというと、そんな簡単な話でもない。フィンランドのlapsiporno.info騒動をみても分かるように、オトナ向けフィルタリングで最も問題となるのは、ブラックリスト管理に於ける透明性の担保である。趣旨や法文がどうあれブラックリストの管理を透明にしない限り、ブロッキング中国パキスタンのような野放図な検閲を招く。

そういう訳で青少年ネット規制法の議論は何とか乗り切ったけれども、これからアキバ通り魔事件を受けた犯罪予告の扱い、青少年ネット規制法の附則で定められた違法情報対策の推進、先ごろ衆議院に上程された児童ポルノ法改正、共謀罪との絡みで棚晒しになっている「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」、2010年通常国会に上程を目指す情報通信法に於けるコンテンツ層でのオープンメディア規制マイルストーン目白押しで、油断も隙もあったものではない。

という訳で国会は終盤にきたけれども、危機が去ったとは到底いえない状況で、依然として踏ん張りどころなのですよ。ちょうど先週末、絶妙なタイミングで通信放送融合法制について中間論点整理がパブコメに付された。2月に経団連から通信放送融合法制に対する意見書を出した時にはオープンメディア規制に対して反対の論陣を張ったが、だいぶ地合いが違ってきてしまった。

通信放送融合法制は、下手を打つとネット規制といわずコンテンツ層の規律というかたちで広範なメディア規制を招く可能性もあるし、この機に乗じて青少年ネット規制法・迷惑メール法・プロバイダ責任制限法あたり丸ごと情報通信法コンテンツ規律として溶かし込んで廃止できないかとも考えたのだが、プロバイダ責任制限法は業法ではなく民法の特別法だから立法技術的には難しいらしい。

という訳で今週から手持ち無沙汰となるつもりが、犯罪予告の扱いに関する議論に通放融合法制の中間論点整理に対するパブコメと、何だかんだ勉強すべきことが積み上がって、頭を空っぽにできない。事件が起こる度に泥縄式の政策課題でっち上げる現政権には辟易しているし、それって本当に国の仕事か?と、ふと立ち止まって考えることもあるのだけれど、残念ながら青少年ネット規制法が成立したところでネット規制の議論は全く終わっていないし、むしろこれから面倒な領域に踏み込むのだと覚悟した方が良さそうだ。

一度作った法律を廃止するということは、政局に影響を及ぼすような例外を除き、経験則上非現実的だと思う。だから、規制が廃止・軽減される方向で検討が進む可能性は少ない。

逆に、「ネットのせい」と受け止められるような事件が発生してしまい、感情的規制強化論が起きるであるとか、あるいは「民間だけの対応では実効性が見られない」ことを理由として、なし崩し的に規制強化へ流れてしまう可能性の方が余程高い。

昨日を歴史のターニングポイントにしないために - 青少年ネット規制法の概略、危険性、今後 - 半可思惟
手続であるか否か任意の意見募集
案の公示日2008年6月14日
意見情報受付開始日2008年6月14日
意見情報受付締切日2008年7月14日
関連資料意見募集要領 中間論点整理 報道資料 中間論点整理のポイント
「通信・放送の総合的な法体系について(中間論点整理)」に対する意見募集

2008年06月10日

[] 青少年ネット規制法 参議院内閣委員会通過

昨日の朝、突然メールをいただいて本日午後の参議院内閣委員会に参考人招致され、採決、付帯決議まで見届けてまいりました。あー緊張した。明日の本会議で成立の予定。特に野党から最後の最後まで詰めの議論があり、法文の曖昧な点については国会答弁でかなり輪郭がくっきりしたのではないかと。

ITMediaの記事で誤解していたのは、登録フィルタリング推進機関って、研究開発と普及啓発だけで、フィルタリング基準策定はしないんですね。自民党内閣部会案が頭に残っていて、誤解しておりました。後で記事を若干修正しなきゃ。明日から2泊4日で米国出張。これから準備しなきゃ。

追記: さっそく午後の審議の様子が公開されている。id:touhou_huhaiが憂慮している件も野党の先生方が丹念に確認し、いい答弁を引き出しているので確認して欲しい。

2008年06月07日

[] 不作為犯に対する法的義務の形式的根拠

青少年ネット規制法で青少年閲覧防止措置が努力義務になったことについて、奥村先生が法技術的には意味があると言及されている。私のような法律の門外漢は字面通りにしか理解できないので、この辺の指摘はとても勉強になった。

「サーバ管理者による青少年閲覧防止措置は努力義務に」って言っても、わいせつ図画・児童ポルノ等の「違法情報」については、名宛人によっては管理者の処罰根拠になります。条文なくても刑法総論で不作為犯として正犯・共同正犯・幇助で有罪になっているわけですから、今回の法律で法的義務の形式的根拠を得たことになる。これまでは条理しかないと言われてきたのにこれからは、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律○条の閲覧防止措置義務違反」と言える。

青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案 - 奥村徹弁護士の見解(hp@okumura-tanaka-law.com)

違法行為に関連した情報については、削除もさることながら背後にある違法行為の取り締まりを強化することが本筋で、発信者情報開示に係る司法手続きの簡素化など、司法権を侵さないかたちで状況を改善する方法は考えられる。

下手にサーバー管理者等に情報削除を依頼すると、犯罪者に証拠隠滅の期間を与えてしまうことも考えられる。シレッとフィルタリング青少年から情報を隔離しても構わないが、情報の削除よりは迅速に犯人を捕まえることの方が重要ではないか。

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