『脳に悪い7つの習慣』(林成之)

 この本は、時々「?」と疑問に思うような文章もあるのですが、「へー」と思った点もあるので、取り上げてみました。

 脳が情報を処理する仕組みにもとづいて(と、著者は主張しています)、脳のパフォーマンスを最大限に発揮させる生活態度や習慣とは何か、が主題です。

 この本の中で私が、「これは信じることにしよう」と思ったのは、第4章「脳に悪い習慣 - 常に効率を考えている」で、「本は一回読むだけでは学んだことを活かせない」という箇所(笑)。

 私の相方は本が大好きで、新書や文庫を大量に買うんですが、1回しか読まないんですよね(^-^)。しばらくして内容を聞いても、ぼんやりした答えか、忘れてしまっていることが多い。仕事の専門書は読み込むんでしょうが、それ以外は流し読みというか、短時間で大量に読む、というスタイルなのです。もちろん、それが悪いわけではないですが。

 それに対して、私はどちらかというと、気に入った本は何度も読み返したり、関連する本を何冊か読んだ後で、それらをまとめてトピックの全体像を図などで把握したい、と思うタイプです。

 だから、この本に「良書は何度でも読め」「くり返し考えることで(ダイナミック・センターコアを情報がぐるぐる回ることで)思考が深まる」とか、書いてあるのがうれしかったりするわけです(笑)。日記やブログも、考えを整理するためにはいいことだ、と書いてあります。

脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書 は 5-1)

脳に悪い7つの習慣 (幻冬舎新書 は 5-1)

 一方、「?」と思ったのは、救急医療の現場で、スタッフに「明るく前向きに」「グチをいわない」「悪口をいわない」「出勤前に最高の笑顔を作る」とルールづくりや、提案をして、食事も睡眠も満足に取れない職場をハイパフォーマンスで乗り切っているというくだり(p.47)。
 いえ、これはすばらしいことです。すばらしいことなんですが、どこか釈然としないのはなぜなんでしょう。たぶん、私はその現場に行かないことを選択する、と思うからでしょう(笑)。
 たとえばですが、これが救急医療ではなく、新興宗教の現場だったら? 食事も睡眠も満足に取れない環境で、勧誘スタッフを笑顔で、前向きに、ハイパフォーマーにする――これは間違いなく「洗脳」です。目的が違えば、同じ手法でも評価が変わってしまうのでしょうか。
 
 別の「?」は、とっても細かいですが、「KY」という言葉を、良いもののように触れている箇所(p.164)。
 ここは、友だちが少ないままリタイアを迎える団塊世代の男性のために書かれているような段なのですが(笑)。

 私は「KYは差別の用語」(『テレビは見てはいけない』より)というのは、同意します。「俺は今KYになっていないだろうか?」「○○ってKYだよね」という、「KY」という言葉の流行は、自分や他人の自由な脳の働きを委縮させるものだと思うからです。日本はそもそも欧米よりもずっと同調圧力の強い社会。そこで「KY」というような言葉をもてはやせば、さらにひどい圧力と抑制がかかってくるはず。

テレビは見てはいけない (PHP新書)

テレビは見てはいけない (PHP新書)

 ウォーレン・バフェットにせよ、ビル・ゲイツにせよ、スティーブ・ジョブズにせよ、圧倒的な成功者に「KY」的なことなど気にする人は一人もいません(笑)。組織内でこまこまと立ち回るためには、ある程度必要な能力かもしれませんが……。私は苫米地氏の「読まなければならない空気など本来ない」という意見に同意します。

『脳に悪い7つの習慣』


 話は戻って、『脳に悪い〜』で、「どんな上司が部下をいちばん伸ばせるのか」という箇所は、上司だったらためになりそうです。部下が主体性を持たないのは、上司や会社組織に一因あり?! 
 「一方的に指示だけして、相手の意見を聞き出すことをせず、「主体的に仕事をしない」と文句を言うのは、脳のしくみからすれば本末転倒」(p.90)――ここらへんが耳が痛いのではと。