ギャラリートモスで野澤義宣展を見る


 東京日本橋本町のギャラリートモスで野澤義宣展が開かれている(10月12日まで)。野澤は1947年生まれ。数年前から具象的な作品を描いているが、それ以前の10年間ほどは真っ黒な画面を作っていた。画面がただ黒一色だった。なぜ現在の作風に変わったんですか? その頃親父が亡くなって、引っ越したんだよね、場所が変わったら同じ絵が描けなくなって、ギャラリー汲美の磯良さんも亡くなって。それで絵が変わったんだ。そんなものなんですか? 作品はすべて共通して「己事記」と題されている。「こじき」と読むようだ。自分の歴史ということか。
 今回の作品は3種類展示されている。アクリルで描かれたものは、具象とは言いがたいが抽象でもなく、何か形が描かれている。ついでパステルで描かれたものがある。題名は「己事記」だが、描かれているのは乞食のようにみすぼらしい印象だ。寒山拾得に似ている気がしますがと言うと、パステルで描いた作品はみな寒山拾得だと言う。子どもを描いた小品は、クレヨンで描かれている。



 アクリルで描いた作品




 パステルで描いた寒山拾得(額にガラスが入っているので反射して見づらくなっている)


 クレヨンで描いた子ども

 アクリル画を見ると、平和で穏やかな印象の野澤が、実は波乱に満ちた激しい人生を送ってきたのではないかと推測される。また、パステル画の寒山拾得を見れば野澤に厳しい一面があることが想像できる。でもこの寒山拾得の絵は怖そうなのにとても魅力的で自分でもほしいと思うほどだ。ところが子どもを描いた小品を見ると、野澤のやさしい心がはっきりと見える。
 3種の画材の作品に、それぞれ野澤の別の一面が表れている。眼のようにも涙のようにも傷のようにも見えるアクリル画と、厳しい表情の寒山拾得と、可愛いというより画家の慈しむ眼を感じさせる子どもの絵と、野澤の複雑な内面が伺える魅力的な個展を見ることができた。
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野澤義宣展
2013年10月7日(月)−10月12日(土)
11:00−18:00(最終日17:00まで)
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ギャラリートモス
東京都中央区日本橋本町1-3-1渡辺ビルB1F
電話03-3271-6693
http://www.jpin.co.jp/saoh
地下鉄(銀座線・半蔵門線三越前駅A1番出口より徒歩3分
(1階にギャラリー砂翁のあるビルの地下1階)