村上春樹 編・訳『セロニアス・モンクのいた風景』を読む

 村上春樹 編・訳『セロニアス・モンクのいた風景』(新潮社)を読む。ジャズ・ピアニストのセロニアス・モンクに関するアメリカの雑誌や単行本からの抜粋12編を編集したもの。それに村上春樹のモンクに関するエッセイと「私的レコード案内」を載せている。12編は長いものもあり短いものもある。いずれもモンクに対して好意的な記事で、クセの強い特異なモンクの音楽について論じているというより主として伝記的なエピソードを綴っている。
 村上春樹のファンであってもセロニアス・モンクのファンでなかったらあまり楽しめるものではないだろうが、村上春樹に関心がなくてもモンクが好きなら文句なく楽しめる。私はモンクが好きでよく聴いていたが、彼の伝記的なことはほとんど知らなかった。
 中ではデヴィッド・カステインの「モンクと男爵夫人はそれぞれの家を見つける」は50ページと最も長く読み応えがある。これはモンクを援助したパノニカ・ド・コーニグズワーター男爵夫人(愛称ニカ)の生涯を描いた伝記『ニカの夢』から1章を抜粋したものという。モンクの作曲した「パノニカ」は彼女に捧げた曲だ。ニカは一時期毎晩モンクをクラブまで彼女の運転するベントレーで送り迎えしていたという。(ベントレーは高級車で、伊丹十三の愛車でもあった)。
 村上春樹の「私的レコード案内」では、5点のレコードが紹介されている。モンクのアルバムをずっとLPレコードで聴いてきたからと、LPで案内するという。またこれらをぜひ聴いてみて下さいというのではなく、「僕のパーソナルな好みや思い入れや各種事情によってたまたま選ばれたアルバムであって、音楽そのものの客観的価値・評価との連動性はあまり(ほとんど)ないような気もする」と書いている。その5点とは、
1. Five by MONK by Five (Riverside)
2. UNDERGROUND (Columbia)
3. We See Thelonious Monk (Prestige)
4. Thelonious Monk Solo (Vogue)
5. Miles Davis All Stars vol.1 ((Prestige)
 私の持っているのはこのうち4番目の「ソロ・オン・ヴォーグ」のCDだけだ。
 私事だけれど、20歳のとき東京へ出てきた。東京で知り合った友人にジャズ喫茶へ連れて行ってもらった。中野にあった店だったけど何て言ったか。クレッセントは渋谷だったっけ。そこで聴いたマル・ウォルドロンの「オール・アローン」が気に入って、ほかに似たようなピアニストは誰かと尋ねたら友人がセロニアス・モンクを紹介してくれた。それでコロンビアから出ていた「ソロ・モンク」のLPを買った。変な演奏だった。でも当時LPレコードは高く、何枚も買うというわけにはいかなかったので、それを繰り返し聴いた。いつの間にかモンクが好きになっていた。
 村上春樹の小説はあまり読まないけれど音楽に関する本はみな楽しめる。



セロニアス・モンクのいた風景

セロニアス・モンクのいた風景