赤瀬川原平『千利休 無言の前衛』を読む

 赤瀬川原平千利休 無言の前衛』(岩波新書)を読む。赤瀬川が「あとがき」で書いている。

 この本は資料としては何の価値もない。自分なりの利休を書いただけだが、それは利休の思想が現代のこの世に生きているからこそ書けたのだと思う。

 赤瀬川はある時突然草月流家元で映画監督の勅使河原宏の使いから電話を受けて、勅使河原が企画している野上彌生子『秀吉と利休』を原作とする映画『千利休』の脚本を書くよう依頼される。赤瀬川は勅使河原も知らなかったし、野上の小説も読んだことがなかった。日本の歴史も中学生以来勉強していない。脚本を引き受けた後であわてて日本史を勉強する。まず井上清『日本の歴史』(岩波新書)を買って読み始めるが歯が立たない。それで、小学館の学習まんが「少年少女。日本の歴史」の『天下の統一・安土桃山時代』を買って読んだ。「これはぜんぜん眠らなかった。最低限必要なことがヴィジュアルに理解できる。基礎としては最適である」。次に『人物日本の歴史・豊臣秀吉』を買った。集英社にも同様のものがあり2冊買って読みくらべた。学研のカラー版学習よみもの『人物日本の歴史・織田信長と統一への道』も買った。こういう児童教育用のマンガは具体的な写真資料も多く、読んでいて吸収率がすごく良い、と書く。この仕事で日本アカデミー賞脚本賞を受賞している。
 その脚本を書いた結果岩波新書編集部から本書を書くよう依頼される。映画では野上彌生子の原作があったので、それを映画用にリライトすればよかった。
 しかし岩波新書に書く場合は先達の参考書を調べるしかない。赤瀬川は歴史に関してほとんど教養がない。だから千利休を書くにあたって自分がたどってきた前衛美術や路上観察トマソンに引き付けて書くことになる。それで一応新書としての体裁は整った。体裁は整えることができたが、内容はどうだったか。その答えが冒頭に引用した赤瀬川のあとがきだ。「 この本は資料としては何の価値もない」。これは謙遜ではない。著者の本音だ。時間をかけて(まあ、1日だったが)読むほどのものではなかった。
 本書の参考文献で紹介されている、桑田忠親千利休』(中公新書)、村井康彦『千利休』(NHKブックス)、小松茂美『利休の死』(中央公論社)を読んでみよう。


千利休―無言の前衛 (岩波新書)

千利休―無言の前衛 (岩波新書)