埼玉県立近代美術館の遠藤利克展「聖性の考古学」を見る

   

 埼玉県立近代美術館で遠藤利克展「聖性の考古学」が開かれている(8月31日まで)。遠藤は1950年生まれ、これまでヴェネツィアビエンナーレドクメンタなどの国際的な舞台で活躍してきた。作品は大きな木を使い、加工したあとで焼いて黒く焦がしている。とにかく大きな作品で、今回も「泉」と題された作品は長さ20m近くある。ちらしから、

 遠藤利克(1950−)は現代日本を代表する彫刻家です。1960年代から70年代にかけて芸術の原理をラディカルに問い直したミニマリズムや「もの派」の洗礼を受けながらも、それらの地平を越えることを課題として、遠藤は1980年代の現代美術シーンに関わっていきました。美術における物語性の復権を掲げた遠藤の作品では、舟や桶、柩などのモチーフが古の文化や神話的な物語を喚起する一方、水や火などのプリミティヴな要素が、人間の生命の根源にあるエロス(生の衝動)とタナトス(死の衝動)を呼び覚まします。作品の圧倒的な大きさは身体感覚にダイレクトに働きかけ、畏怖と恍惚が、そして生と死が一体となった、より高次元の間隔へと観る者を導いていきます。それは遠藤にとって、芸術を通じて「聖なるもの」に近づくことなのです。

 会場には大きな作品が、仕切られた部屋ごとに1体ずつ10点余り並んでいる。小さな作品は鉛で作られた長さ1.5mの舟だった。撮影が許可されているのは受付手前の「空洞説―円い沼」と吹抜けに吊り下げられたような「空洞説―薬療師の舟」だけだった。それを次に提示する。



「空洞説―円い沼」直径が3.76m、高さが1.45mあり、真ん中に浅く水が張られている。

「空洞説―薬療師の舟」高さが7.9mある。

 ちらしに使われているのが「泉」という作品で、長さが19.26m、高さ=直径が95cmある。中に円い穴が貫通していて、実際は15個のパーツからなっている。東京都現代美術館の所蔵品だという。

 美術館の入り口の看板に取り上げられているのが、「寓話V−鉛の柩」で長さ3.45m。木と鉛で作られている。
 「無題」と題された作品は、高さ3mの太い円柱が円形に12本並んでいる。これらの柱の作る円の直径が8.8mで、ストーンヘンジを思わせた。
「空洞説―木の舟」も長さが11mもあり、ここまで大きいと現実的な丸木舟ではなく、象徴的なものだろう。
 遠藤の作品はみなスケールが大きく、そして現実に存在するものの形象を表している。大きさは単に相対的なものではなく、大きいということに積極的な意味が生じている。やはり弁証法的に別の次元へ到達しているのではないか。
 ちらしの解説にもあったが、遠藤は「ミニマリズムやもの派の洗礼を受けながらも、それらの地平を越えることを課題として」、その結果、批判的に乗り越えていると言っていいだろう。遠藤の達成からもの派やミニマリズムを振り返ってみたとき、それらの造形が貧しく美術の主流ではなかったことに気付かされる。むしろ遠藤こそ主流に近いのではないか。
 遠藤の作品は大きく、展示は大変だったと想像する。画廊での個展は北参道の秋山画廊で何度も行ってきた。遠藤は秋山画廊のスペースに合わせて作品を作り、秋山画廊も移転した折、遠藤の作品を展示することを主眼にそのスペースを設計したと聞いた。
 ちらしにあるように、確実に現代日本を代表する彫刻家と言っていいだろう。
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遠藤利克展「聖性の考古学」
2017年7月15日(土)―8月31日(木)
10:00−17:30(月曜日休館)
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埼玉県立近代美術館
電話048-824-0111
http://www.pref.spec.ed.jp/momas/
JR景品東北線北浦和駅西口より徒歩3分