山本弘の作品解説(74)「窓」


 山本弘「窓」、油彩、F10号(53.0cm×45.5cm)
 1976年制作。赤黒い夕闇の中に明るい窓が光っている。赤黒く塗られた家の手前、右側によく見ると家と同色で横向きの人が描かれている。人の形の輪郭が描かれ、黒いズボンが描かれ、長靴のような靴が線描されている。靴の線描は硬い筆の尻で描かれたようだが、人の輪郭は絵具を塗り残して描かれている。人の形も家の壁もパレットナイフで描かれているが、パレットナイフの動きを変えて人型を描き出している。左手を前方に伸ばしているようにも見えて、その先に黒い四角が描かれている。荷物を持っているのだろうか? 家の輪郭も絵具の塗り残しで描かれている。窓の明るさが外にいる人の強い憧憬をかきたてているようにも見える。左隅に線描で弘のサインがある。
 山本特異の赤だ。しばしばこのように赤を全面に使っている。強い作品だ。1981年に51歳で亡くなった山本は、1976年、1977年、1978年の3年間、優れた作品を量産した。最晩年の豊穣の3年間だった。しばらく止めていた酒をこのころから飲み始め、酒量は体力の限界まで増えていった。1979年は体調を崩して作品数も少なく、1980年はアル中治療のために入院生活を送っていた。1981年4月に退院して3か月後に死を選んだ。たくさんの傑作を残して。あれからもう37年になる。