mmpoloの日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2010-09-28

[]教育に関するヒント



 先に紹介した安藤陽子展のパンフレットに面白いインタビューが載っていた。安藤陽子はすばらしい日本画を発表している若手の画家だ。

ユニークな日本画家 安藤陽子展(2010年9月26日)

ーー小さい時から絵が好きだったのですか。

安藤:価値観とか、好き嫌いとか、色へのこだわりは強かったのですが、絵は上手くなかったんです。でも親がすごく褒めてくれる親だった。2歳の時にとった賞をずっと褒め続けて自信を持たせてくれて。美大に入ってから自分は絵があんまり上手じゃないことに気づきました(笑)。あれはすごいと思いますね。小学校でも中学校でも美術は3だったのに、これは違う、私は本当は上手なんだって思い込んでいたのですから。

 先に紹介したとおり安藤は優れた画家だ。それが小中学校時代は上手ではなかったという。だが母親が褒めて褒めて一種の暗示をかけたのだろう。自分を信じて精進すればこんなに優れた画家になれるのだ。

 このことは、同級生の小磯良平より下手だった山口長男が戦後最高の画家になった例や、絵が描けないと言ったフランク・ステラが世界のビッグネームになった例、「ニューマンには幸か不幸かそのカラーフィールドと垂直線の絵の前史に、貧弱なわずかの水彩画しかない」と書かれたバーネット・ニューマンが抽象表現主義のトップに立ったエピソードを思い出させる。


小磯良平と山口長男(2006年3月14日)

偉大な画家は下手な画家(2006年11月17日)

2010-07-31

[]「和歌とは何か」で紹介された教育法



 渡部泰明「和歌とは何か」(岩波新書)には、「古今伝授」についての1章が設けられている。古今伝授とは、「簡単にいってしまえば、それは師匠から弟子へと1対1で行われる、『古今集』ほか重要古典の教育プログラムである」。それに関連して、著者が中学生の時に経験した教育法が語られている。

 私が中学1年生の時、理科の先生が、音は空気を伝わる波である、と授業で説明した後、どんなことでもいいから、恥ずかしがらず質問してごらん、と皆に促した。その時、どうして電波は伝わるのか、と尋ねた生徒がいた。音波よりも格段に高度な質問である。へたに説明すれば、音波についての理解すら混乱しかねない。先生は一瞬言葉に詰まり、次にこう言ったのである。「この質問への答えは君たちには難しすぎる。だから今から嘘を教える。これは嘘だから、将来しっかり勉強して、本当のことを知ってほしい」と言うや、やにわに棒を取り出してそれをぶるぶると震わせ、「ほら、こうやってまずアンテナが細かく揺れるわけだ。そこで電波が発生して……」とやり始めたのだ。さすがに中学生でも嘘だとしか思えない説明だったが、嫌な感じは少しもしなかった。先生は生徒の質問から逃げなかったし、道化役を演じてでも生徒たちのなかに飛び込み、その知的好奇心をつなぎとめようとした。それが中学生なりに感じ取れたからだ。むしろ感動したといってもよい。「今から嘘を教える」。こういう言葉を覚悟をもって吐ける教師でありたいものだ、と思う。つまり先生は、説明内容としては私たちに嘘を教えたのだが、教える行為としては、忘れ難い「真理」を伝えたということになる。この体験と古今伝授とはかなり次元の異なる事柄ではあるが、少なくとも、行為という側面からこの教育方法を見直してみる価値はあるように思うのだ。

 私がこの教師の立場にいたら、どのように答えられただろうか。千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず、という諺を思い出した。天才児は多いが名教師は少ないという諺を。

和歌とは何か (岩波新書)

和歌とは何か (岩波新書)