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2014-11-29

[]『わたしのノラネコ研究』を読む



 山根明弘『わたしのノラネコ研究』(さ・え・ら書房)を読む。先日紹介した『ねこの秘密』(文春新書)の著者が書いたジュニア向けの本だ。「わたしの」となっているのは、先輩伊澤雅子の絵本『ノラネコ研究』に対して山根のという意味だろう。伊澤の本が小学生向けに書かれているとしたら、本書は中学生向けくらいか。ノラネコの生態的研究の方法をていねいにじっくり語っている。

 何と言っても山根は九州大学大学院で7年間、福岡県玄界灘に浮かぶ人口500人の相島(あいのしま)へ通って、島に住むノラネコ200匹を個体識別し、すべてに名前をつけてその生態を研究した動物学者なのだ。中学生向けにやさしく書かれていても生態学研究の実績がその裏に潜んでいる。とても興味深い内容だ。

 最初に白黒写真が掲載されている。「求愛」と題されたその写真は、中央右寄りに小さな猫がうずくまっている。それが発情したメス猫メイなのだ。そのすぐ左に黒い大きな猫、右に少し離れて中くらいの大きさの猫、手前に大小2匹の猫が、それぞれ少し離れて座っている。さらに左端の一番離れたところに割合大きい猫が座っている。よく見ると奥にも大きな猫が控えている。メイを除いてこの6匹がすべてオス猫なのだ。メイとの距離は猫達の序列を表している。左端の大きな猫は余所のグループから遠征してきているので、体の大きな割りにはメイに近づくことができない。メイからの距離=序列は交尾の可能性の高いことを示している。一般に力の強いオス猫から交尾ができるとされている。

 ところが長時間の待機にオス猫たちが眠ってしまったとき、メイが突然駈けだした。オス猫達は気づかない。山根が追いかけたがいったんは見失ってしまった。そして見つけたとき、メイは余所のグループのオスと交尾していた。メス猫は選ぶ権利を持っていたのだった。

 山根は当時ようやく使われ始めた遺伝子DNAを調べることによって、島の猫たちの親子関係を明らかにしてゆく。すると意外にも父親はグループ内のオス猫より、余所のグループから遠征してきたオス猫の方が多かった。グループ内のオス猫との交尾回数が5倍も多かったにも関わらず。

 そんなおもしろいエピソードが語られている。大人が読んで十分おもしろいものだった。ただ一点、ブックデザインが洗練されていない恨みがある。少し古い時代の本みたいな作りなのだ。それを改善したら多くのヤングアダルト層はもとより、猫好きの大人たちにも受けるように思うのだが。


わたしのノラネコ研究

わたしのノラネコ研究

ノラネコの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)

ノラネコの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)

2014-10-16

[]『ねこの秘密』を読む



 山根明弘『ねこの秘密』(文春新書)を読む。著者は北九州市自然史・歴史博物館学芸員で、学生時代からノラネコの研究を続けてきた。動物学者が書いた猫の生態に関する(というと難しそうだが実は)易しい猫の入門書だ。猫好きならとても参考になって楽しい。

 山根は大学院生のころ、福岡県玄界灘に浮かぶ相の島でノラネコの研究をしていて、島に棲む200匹の猫全部に名前をつけて個体識別していた。筋金入りのノラネコ研究者なのだ。

 だから猫の生態に関する話は伝聞や文献からのコピーなんかではなく、実際に自分が研究したユニークで大変興味深いものばかりだ。「モテるメス、モテないメス」という節では、

 メスの発情は、数匹のメスで同時におこることがあります。そのなかには、たくさんのオスに囲まれて求愛を受けるメスもいれば、あまり求愛されないメスもいます。その違いは、メスの若さや繁殖の経験のようです。仔ねこを産み無事に育て上げたことのない、あるいはそういう経験の少ない若いメスは、オスにとってはあまり魅力がないようです。それとは逆に、これまで何度も繁殖し、仔ねこを何匹も無事に育て上げたことのあるメスは、たくさんのオスから求愛を受けることになります。人間の場合とは逆とは言いませんが、オスによるメスの魅力の判断基準は人間とねことでは少し違うようにも思えます。

 もう20年ほど前になるだろうか、娘が夢中になって読んでいた本に伊沢雅子『ノラネコの研究』という小学生向けの絵本があった。やはり動物生態学者が書いたもので、ノラネコを追いかけて研究していることを絵本仕立てで書いている。24時間ノラネコを追跡して生態を観察するという方法も紹介されていて、深夜ノラネコの後を付けて歩き、ノラネコが眠るとその近くで何時間も待機するという結構過酷な内容だった。娘が自分も24時間観察をしたいと言い出して、それは危険だし、親が付き添うのも大変すぎるのでやっと思いとどまらせたのだった。

 でも、この内容でヤングアダルト向けに、写真で見せるノラネコの生態の入門書を出版できないかと企画した。絵本の著者は沖縄大学に勤める動物学者だったので、その企画を提案すると、すぐに断りの手紙が送られてきた。いま、沖縄では天然記念物ヤンバルクイナなどが、ノラネコの被害にあって問題になっている。とてもノラネコの生態について(好意的に)書ける状況ではない、とのことだった。

 伊沢さんへの執筆依頼をあきらめて、次に京大の昆虫学者日高敏隆氏に相談した。日高氏は昔指導した女性の研究者を推薦してくれた。彼女はつくば市に住み、現在は家庭に入って子育てをしていた。自宅へ伺って執筆を依頼すると、1年間時間をほしい、前向きに考えてみるとのことだった。1年後、執筆の経過をうかがうべく自宅を訪ねた。実は子供を私立小学校へ入れることにして、そのお受験の準備をしなければならなくなった、とても本を書くゆとりがないと断られた。

 ついで部下の担当者が見つけてきたのが本書の著者山根さんだった。北九州市博物館へ何度か訪ねて、執筆を承諾してもらった。相の島の猫200匹を個体識別したという話も担当の者がそのとき聞いてきた。出版を楽しみにしていたが、私は会社を離れることになってしまった。

 それから10年近く経っただろうか。最近、昔の部下に会ったとき、あの猫の本がどうなったか聞いてみた。「すみません、私の力不足でした」というのが彼の答だった。残念だった。その2カ月後くらいに新聞広告で本書の出版を知ったのだった。

 優れた著者を得て、良い本に仕上がっていると思う。でも、やっぱりこれがカラー写真をふんだんに使って構成されていればと、未練たっぷりに思うのだった。


ねこの秘密 (文春新書)

ねこの秘密 (文春新書)

ノラネコの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)

ノラネコの研究 (たくさんのふしぎ傑作集)