罪と罰

罪と罰〈1〉 (光文社古典新訳文庫)

罪と罰〈1〉 (光文社古典新訳文庫)

2008年から2009年にかけて出版された、亀山郁夫氏による『罪と罰』の新訳。
全3巻を少しずつ読み進めていた。

歴史的な文学作品について語る必要など無いだろう。
しかし、”読書とは、その時、自分の中に内在する知識や思いを投影する手段”とあるように、読書は読み手、読む時期、社会的状況など、様々な写像を映し出す手段であり、またブログなどでアウトプットしたところで、その読み手の印象もずれる。
この作品はおそらく、読み手の写像如実に現れる。
ラスコーリニコフの思考過程など今読んでもやけにリアルに感じるし、スヴィドリガイロフの暗示的な役回りなど斬新にさえ思える。人間性回帰への道筋を示した倫理観への訴えは数世紀の時間も関係の無い根源的なものであるのだと思う。

実はこの作品、先に出版された同氏の新訳『カラマーゾフの兄弟』が読みやすいと何かで見て知ったのですが、調べてみるとやけに熱心な批判も転がっていた。
あらゆる翻訳書籍に共通して言えるとは思うのだが、原文の解釈の違いや誤り、原文とは違う言語での表現含め、非常に扱いは難しい。
これが重厚かつ精巧で、登場人物の台詞や行動一つ一つが重要な心理描写にもなるのだろうドストエフスキーの作品では看過できないことが多いはずだ。

各巻の巻末には、時代背景や訳の際の考察など、筆者(亀山郁夫氏)の丁寧な解説が読めて面白かった。その後Web上で拾い読みした批判文書も読み応えがあった。
一つの作品から、これだけ思考をめぐらせることができるのは、本を読んだ人の特権だろう。

罪と罰〈2〉 (光文社古典新訳文庫)

罪と罰〈2〉 (光文社古典新訳文庫)

罪と罰〈3〉 (光文社古典新訳文庫)

罪と罰〈3〉 (光文社古典新訳文庫)