高機能リグの罠とシンプルリグのすすめ


モーションを作るうえで欠かせないのがリグの存在だ。

細部まで分業化された会社によっては、このリグをセットアップするのを専門とする「リガー」と呼ばれる人達がいるらしい。だがほとんどの場合、そのモデルを制作したモデラーか、モーションデザイナーがリギングする。

リギングの技術はモデラーとモーションデザイナーをつなぐ技術といえる。モデラーとモーションデザイナーがコンセサンスをとるほどより良いリグが出来るということだ。

よく出来たリグは、モーション制作に大きな恩恵をもたらす。それはフェイシャルや、指先の動き、制御のしやすさ等、細かなところまで行き届いた制御だけではなく、生産スピード、クオリティー、動きの発想にまで影響を及ぼす。


では、良しとされるリグとはどんなリグだろうか。

いろんな機能が盛り込まれた、気の利いた高機能なリグだろうか。それとも最低限5体満足に動かせられるだけの手抜きのようなリグだろうか

この認識の違いが、ひょっとしたら、我々日本の3DCGアニメーターに大きな影響をもたらしているのかもしれない。

私が思うに、どうも日本では高機能リグに注目が集まっていると感じる。いや、日本だけではなく、世界的に見てもそういえるかもしれない。具体的に例を出すと以下のようなリグが、「良し」とされているようだ。

  • 制御出来るコントローラーが豊富で、細かな制御が可能。
  • 体に埋まらないよう回転にリミッタがかかっている
  • 足が地面に埋まらないような機能がついている(フロアコンタクト)
  • IKとFKを切替られる
  • モデルが捩れたときのための制御ヌルがある
  • 指先にまで、IKが入っている
  • フェイシャルに対応済み
  • オートで肩が動く

つまり至れりつくせりってわけである。

いろんな会社を見てきたが、モデラーがリグを自由に入れられる環境がある場合彼らは、非常に高機能なプロご用達といった感じのリグを用意してくれる。

そう。高機能リグであるほど、モーションデザイナーが喜んでくれると思っているのだ。そして、事実モーションデザイナーは、それを喜ぶ。もしかしたら、更に細かな要望を要求するかもしれない。自分で、更に高機能なリグを提案するかもしれない。

もはや高機能リグが「良し」とされてるのは常識のようだ。




ここからが本題になる。

その常識はかなりやばい。
モデルのウエイトを調整するために、肩や関節の骨が増えてゆく。ってのは仕方ないしアニメーターとしてそれほど問題はない。

しかし今現在の日本において多くのCGアニメーターが(特に新人や卵)この無意味に高機能なリグに喜び、結果使いこなせずいいモーションにたどり着く前に、終了を迎えるているのだと思う。

「機能が多い=いいモーションがつけられる」ではない。むしろ逆「機能が多い=手間が増える」こう解釈したほう真実に近い。

アニメーションに限らずだが、何かの物事を解決しようとするとき、その解決に用いたパッチが、他の問題を引き起こすことがある。

失敗すれば芋づる方式で問題は増える。

通常であれば、それは技術向上のための必要悪とされる問題かもしれない。しかしアニメーションの場合は、そのデメリットが想像以上に大きいのだ。ファンクションカーブの数が2倍になれば、制作スピードも2倍以上になるしクオリティーにも影響が出る。修正も容易ではなくなるだろう。リミットやフロアコンタクトがあるということは、Fカーブが読めないなど多くの自由を失うことになる。選択するコントローラーが多いということは、選択の手間が増えるということだ。

何よりも、モーションデザイナー本来のスキルである「いい動き」を作る過程において大きな荷物になる。

高機能リグを使いこなせている?その前に、そのモーションはいい動きなのか?世界に誇れるモーションなのか?細かなところまで動いている=いいモーションだとでも思っているのか?

大事な事を見失ってはけない。最も優先するべきは何かを知っていれば、問題を問題としないという選択肢も出てくるはずだ。

高機能リグのメリットばかり見てきたモーションデザイナーてのは、ツールに酔っている人間。もしくは、「いい動き」を追求することから逃げた人間だ。

この高機能リグの罠に気付いているモーションデザイナーはどれほどいるだろうか?そして、モデラーはその事実に気付く機会はあるのだろうか。

例えば大量のモブのアニメーションをつけなければいけないのに、指先まで骨の入ったリグで作れと言われたら、とてつもなく迷惑である。

それを理解できるのは、モーションデザイナー自身しかいない。もし、リグを入れるモデラーや、リギング専門の人がいたら、モーションデザイナーは、モデラーやリガーにぜひその意見を伝えるべきだ。伝えなければ、この先も我々モーションデザイナーのスキルUPのスピードに加速は望めないのだから。

揺れものや指先まで動いているしょっぱいモーションと揺れものなし指アニメなしの、活き活きとしたモーション。観客が感動するのは、はたしてどちらか・・・。

もちろん、活き活きとしたモーションで、指先まで動いていれば最高なのだが。今の日本でそのステージに立てる人は、少ない。

補足
この理屈には「対象が限定」されることと「例外」が存在する。

「対象」・・・新人、及びいつまでたっても成長しないモーションデザイナー。(主に日本)
新人に関しては、まず基礎的なモーションを教える上で、余計な制御は蛇足になる。まだ早い。成長スピードに影響する。いつまでも成長しないデザイナーは、その基礎が出来る前に、高機能リグの魔力に取り付かれた成れの果てだ。

「例外」・・・行き詰った人、及び、出来るモーションデザイナー。そしてアップショットのように細かい制御が必要なシーンを作るとき。(主に世界)
例外は、基礎がしっかり出来ている人の次のステップと考える。また顔のアップ、フェイシャルのシーンでは高機能リグの存在が必要になる。(これに関しては、全体のモーションとは別に用意するべきだと思うが)