佐藤康光九段による書評 「引き出された勝負師の本音」

産経新聞1月9日朝刊に、佐藤康光九段による書評「引き出された勝負師の本音」が掲載されました。
http://sankei.jp.msn.com/culture/books/110109/bks1101090804008-n1.htm
何にも代えがたい素晴らしい贈り物をいただいた気分です。ありがたく嬉しい年始になりました。

米長邦雄日本将棋連盟会長との対談(@中央公論)が公開されました。

現在発売中の「中央公論」誌上に掲載されている米長会長との対談が、ウェブ上でも読めるようになりました
幾度も繰り返し書いてきたように、米長さんは私の昔からの憧れの人であり、彼の著書「人間における勝負の研究」は、私にとってバイブルと言うべき有り難い本でした。稀代の大人物とのこうした対談が実現したことは、私にとっての大きな喜びで、生涯の記念となるものです。
将棋の海外伝播などについてのブログで、「将棋興行師宣言」なんて評されていますが、そんなそんな、おこがましい限りです。
ただ、清水あから戦に企業スポンサーがつかなかったりといった現状を知るにつけ、将棋界にはプロデューサーというかプロモーター的な役割を果たす人が、米長さん以外にいなさすぎるなあ、という問題意識は強く持っていて、自分にできる限りのことはしたいと考えているので、対談からそんな私の気持ちが垣間見えたのかもしれません。
「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」の中でも書きましたが、将棋の全体を愛している将棋ファンは数多いわけです。でも、その「愛すべき全体」を未来に向けて存続させていくことはそんなに簡単なことではありませんので、私も自分にできることは少しずつでもしていきたいと思っています。たとえば十代後半から二十代前半の若者が、厳しい厳しい三段リーグを抜けてプロ棋士になるわけですが、その先にある「棋士という職業」の未来が明るいものであってほしい。そう願う将棋ファンは多いはずです。
この本の書名を、一部の将棋ファンからのご批判は承知の上であえてこう付けたのも、たとえば企業スポンサーを獲得しようと思ったときに、将棋を知らない意志決定者に「将棋の魅力」「棋士の魅力」を伝える取っ掛かりをどう作ったらいいのかという、私にとって最優先の問題意識に対しても役に立つような本(パッケージ)にしたい、と思ったというのも、その理由の一つとして大きかったのでした。

祝・「将棋世界」電子書籍化

将棋世界電子書籍化、発表直後からの大反響、おめでとうございます。
数か月前に米長会長と柿木さん(柿木神)からこの構想を伺い、試作版ソフトを見せていただいたとき、「紙から電子書籍にすることで、将棋ほど価値が高まるものはないのだ!」と直覚しましたが、いざ完成版をダウンロードしてみて、いやいや、やはりこれは棋書に革命を起こしますね。そう確信しました。
将棋の雑誌や本を読みながら、同じページにある盤面図の上を棋譜通りに駒が動かせる。ある対局の図面を示しながら某かの話題を展開するとき、その図面の裏には実際の棋譜が紐づけされていて、読者はその棋譜を初手から最終手まで自由に図面上で動かせる。それも指で触れるだけで。

こんなシンプルな新しい機能によって、将棋の本や雑誌の読書経験がどれだけ違ったものになるか。この機能こそを読者は待ち望んでいたのです。百聞は一見にしかず。iPadユーザの方は、将棋世界アプリ(230円)をダウンロードして、無料で添付されている「将棋世界」12月号を体感してみるといいと思います。
http://journal.mycom.co.jp/news/2010/12/08/115/
タイトル戦、順位戦を中心としたネット中継の充実(特に棋譜コメント欄充実には目を瞠るものあり、ときどき行われるUst大盤解説中継も秀逸)、携帯中継事業の開始(今はほぼ毎日、対局中継がある、そして携帯全機種対応へ)、このたびの「将棋世界」の電子書籍化、さらに今後起こるであろう棋書の革命的変化や、新しい将棋コンテンツ・アプリケーションの創出。
ブレークスルーは、さまざまな真摯な努力の総量がある閾値を超えたときに突然起きることがあります。
2011年が、将棋界にとってそんな始まりの年になりますように。

どうして「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」という書名にしたんですか?

「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」発売から約一週間、Twitter等でたくさんの感想をいただき、ありがとうございます。

そして素晴らしい書評をいくつも読み、著者として嬉しい気持ちです。主だった書評はここにブックマークしましたので、ご興味のある方は是非読んでみてください。中でも「ものぐさ将棋観戦ブログ」の書評 は圧巻で感動しました。
著者自らが自分の作品についてあれこれと語るべきではないと常々思ってはいるのですが、この書名については想像していた通り色々な反響があり(中には厳しいご意見もあり)、「ものぐさ将棋観戦ブログ」の書評では、そのことにまでお気遣いいただいてしまったようで、感謝の気持ちでいっぱいです。

だから恐らく、本のタイトルが敢えてこういう挑発的なものなのだ。あくまで、将棋ファンだけでなく、全ての人間に将棋の世界の魅力を開放して解き放つために。(中略)
梅田は「はじめに」でも「あとがき」でもはっきりこういっている。最終的には、誰もが将棋の「全体」を愛するようになって欲しいと。(中略) 梅田が望むのは、将棋界最大のビッグネームの羽生を入り口として、誰もが他の色々な棋士にも興味を持ち、羽生のことにもますます興味がわき、結局将棋の世界全体を愛することである。タイトル名は、そのために梅田が自分の身を危険に晒してまでも巧妙に張り巡らせたワナだったのである。そして、読者がそうなるように本書は書かれているのだ。
最近ツイッターで、将棋を観戦することに専念して楽しむ「観る将棋ファン」が増えている。彼らを観察していると、まさに梅田が言うような成長の過程をたどっている。
入り口は大抵羽生だ。しかし、羽生の将棋を見ているうちに、他にも魅力的な棋士がたくさんいることに気づく。猛烈な勢いで詳しくなり、それぞれが各自の贔屓を持ちつつ、結局将棋の世界全体が好きになっていく。
本書で将棋の興味を持った読者が、そういうプロセスをたどることを梅田は切望しているはずである。

「自分の身を危険に晒」すというほどでは全くありませんが、ものぐささんが書かれたようなことを考えて、このタイトルをつけたのは事実です。ものぐささんの分析は当たっています。
あえて言えば、もう一つ理由があります。
何か(将棋)にほとんど関心のない人に、何か(将棋)に目を向けさせる。
これは、本当に本当に難しいことです。この本のタイトルを決めるときに、その難しさに挑戦してみよう、と思ったということがあります。
たとえば将棋が大好きになった小学生や中学生。そのお父さんやお母さんは将棋に全く興味がない、なんてケース。将棋に関心のないお父さんやお母さんと将棋の接点はいったいどこにあるでしょう。将棋大好き会社員が、将棋にまつわる何かの企画を社内で通して予算を確保したいと思った、なんてケース。将棋に関心のない上司や同僚と将棋の接点はいったいどこにあるんだろう。将棋が大好きと公言している私の周囲には、将棋に関心のない経営者ばかりがいて、その中にはときどき囲碁ファンがいたりする、なんてケース。将棋に関心がない経営者と将棋の接点はいったいどこに求めたらいいんだろう。そういう人たちと将棋の話をしたいと思ったら、その発端はどこに求めたらよいのでしょう。
現代将棋の奥深さ・面白さ、羽生善治をはじめとする棋士たちの魅力を、精一杯ベストを尽くして書いた本ができあがったとき、その本にこういうタイトルをつければ、普通の将棋の本など絶対に手に取らない人たちが「へえ」と思って、少なくとも1ページはめくってくれるのではないか、そしてその最初の1ページで、こちらの世界に惹きこむことができるような書き方ができていたとすれば、「将棋にほとんど関心のない人に、将棋に目を向けさせる」ことができるんじゃないだろうか。なにしろ、そういう人たちが私によく尋ねる質問が、そのままタイトルになっているわけですから。そして、ディープな将棋ファンにも面白く読んでもらえるものでなければ、関心のない人を動かすことなど絶対にできないだろうから、この内容にこのタイトルをつけるのは有りだ(主テーマはまさに羽生善治論であるわけですし)、と考えました。そしておりしも発売時期は、渡辺竜王と羽生名人の世紀の対決が行われているベストタイミング。将棋に関心のない人の耳にも、将棋のニュースが飛び込んでくる時期であるわけです。そういった諸々が、私なりに出した「難しさへの挑戦」の処方箋だったのでした。
ある囲碁ファンの方のこんな感想を読んで、その試みの効果があらわれているな、と嬉しい気持ちになりました。たとえば私だって囲碁の世界については、張栩さんくらいにしか関心がない。そこがきっかけにならなければ、囲碁の世界を垣間見てみようとは思わないわけです。囲碁についてそれ以外は、井山さんというすごく若い人が羽生さんと対談していたなぁくらいしか知らない。何かに関心のない人の知識は、そんなものです。それほど、「何か(将棋)にほとんど関心のない人に、何か(将棋)に目を向けさせる」というのは難しいものだと、私は認識しているのです。
ウェブ進化論」は、ウェブ大好きという若い人たちが、ウェブについてよく知らない上司や両親といった上の世代の人たちに本を贈る、という現象が起きました。「ウェブで学ぶ」は、それを読んだ大人たちが、子どもや親せきの中学生や高校生に贈る、という現象が起きました。
この本を、将棋ファンの人たちが、「将棋って本当に面白いものなんだよ、棋士たちってとてつもなく魅力的な人たちなんだよ、ほら」と言って、将棋に関心のない人に渡してもらえたら、それは著者にとってのささやかな喜びです。少なくとも、私は自分の周囲の人たちに対して、そんなふうに働きかけていこうと思っていて、その試みがなかなか上々の滑り出しなのだということも付け加えておきたいと思います。

新著「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?」、発売されました。

新著「どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?―現代将棋と進化の物語」が発売されました。アマゾンには今日在庫が入り、紀伊國屋書店新宿南店にも既にもう並んでいたそうなので、11月24日から全国の書店にも並ぶはずです。

本の帯に、「10篇の「観賞」と「対話」が織り成す渾身の羽生善治論。」とありますが、ことに対話篇五篇(羽生善治勝又清和山崎隆之行方尚史深浦康市との対話)は、僕が「こういうものが読みたい」と昔からずっと思っていたイメージを実現しようと試みたものです。
その意味では、自分が読みたいことだけを書いた本なので、何の説明もせずに「どうぞ読んで下さい」と心から言える、そんな本ができあがりました。