つづきだよ!

カーテンの隙間から漏れる日差しが瞼をこじ開けようとしていた。
ふわふわする鼻先の感触の主を知りたくてゆっくり目を開けた。
銀色の髪。腕に、全身に感じるぬくもり。
隼人がすぐ傍にいることにこんなに嬉しいと思っている自分がいる。
でもまだ、この幸せに甘えるわけにはいかない。
こうしていままでしてきた戒めを解いてしまったからには、しなきゃいけないことがある。


そのとき突然携帯が鳴った。
そっと、ベッドから抜け出して散らかったスーツから携帯を探す。
「じゅ、だいめ?」
「あ、隼人起こしちゃってごめんね。まだ寝てていいから…あった、」
もしもし、と少し緊張しながら電話にでると知った声が聞こえた。
『ああ、おはようございます、綱吉くん。起きてましたか?僕ですよ』
「起きてるよ、骸。それで…」
『そう急かさないでください。うっかり、してしまうかもしれませんからね』
骸の低い声の向こうにかすかに悲鳴のようなものが聞こえた。
『クフフ…それで、どうします?君が殺すなというからここまで時間がかかってしまったんですよ?』
「ああ…」
きっと骸は電話の向こうでターゲットに槍でも向けているんだろう。時折悲鳴が聞こえる。
骸のいう通り、隼人に気づかれないように、と思って秘密裏にことを進めてきた。なのでやっと今日、脅しをかけてきたターゲットに逆に脅しをかけるようなところまでもってこれたのだ。昨夜隼人に話した様に、このターゲットこそボンゴレに脅しをかけてきた親玉であり、俺の婚約者だった女性の父親でもある同盟ファミリーの中でも結構な力を持つファミリーのボスだ。
「十代目…」
俺が決断しようと考えこんでいると、隼人が隣に座ってきた。
「骸、電話代わってくれる?」
『彼にですか?変わってますね、君は』
じゃあ代わりますからね、といってまた短い悲鳴が聞こえた。
「もしもし?」
『貴様…こんな、こんなことしてどうなっても…!』
「いいですよ、何をしてくださっても。やっぱり俺は嵐しか愛せませんから」
「十代目…」
隣にいる隼人に告白するように言うと、隼人は困ったような顔で微笑んでくれた。
これで、全てが終わる。そして、また、ここから始まる。
「まだ貴方がたに反抗出来るような力があれば、ですが」
『…くっ…』
『もういいですね、綱吉くん』
「ああ、骸。ありがとう、後始末もよろしく」
『これっきりですよ、こんな面倒なこと。君の頼みでももうしてあげませんからね』
「うん、わかってるよ」
『ちゃんと約束も守ってくださいよ』
「わかったって!じゃあな、切るぞ」
『ちゃんと聞いてるんですか?!つなよ』
ギャアギャア騒ぐ骸の言葉を最後まで聞かずに俺は通話を終了させた。


「十代目…、終わったんですよね?」
「うん…そうだよ」
疑うような目で見つめてくる隼人を見て、やっと自分でも実感が沸いてきたようだった。"終わった"そのことが何を意味するのか、それを考え、想像するだけでいままでの悪夢が薄れていく。とにかく、もう君の悲しい顔を見なくてもいいんだ。
俺はこの現実が逃げないように隼人の肩にもたれかかかり、背中に腕をまわした。隼人も優しく抱きしめてくれた。
「さっきの言葉、嬉しかったです」
「…さっき?」
呟くように言った隼人の台詞に、覚えがなかったので聞き返した。
「"嵐しか愛せません"って」
もう忘れちゃったんですか?と隼人は笑った。そういえばそんなこと言ったような。終わった、という気持ちが大きすぎて頭の隅に追いやられていたのだろう。自分が意図しないようなところで隼人がこんなにも喜んでくれるなら万々歳だけど。
「本当のことだよ」
「はい」








そうして俺は、我が最愛の人を再び手に入れることが出来たんだ。