ネットの記録が消えるのは一瞬

眞鍋かをりのココだけの話

開設から6年 眞鍋かをりさんのブログが閉鎖」などで報じられている通り、“ブログの女王”と呼ばれた眞鍋かをりさんの「眞鍋かをりのココだけの話」が閉鎖されたようだ*1眞鍋かをりさんのファンというわけでも、ブログの愛読者でもなかったけれど、これだけ知られたブログでも「更新されない」だけでなく「閉鎖」されてしまうと、“かつて”だったとしても、熱心な読者は残念なのではないだろうか。

かくいう私も、とくに知財に関する素晴らしい見識を書かれていた「ナガブロ」(2008年8月頃、過去ログ消去)や「KSTK」(2010年1月閉鎖)などが閉鎖されて大変残念な思いをした。

Wayback Machine

archive.org という素晴らしいドメインで運営されている「Wayback Machine」は、ネット上のコンテンツを網羅的に記録し続けている。眞鍋かをりさんのブログの最初の投稿*2も見ることができる。

だが、ナガブロさんのブログも KSTK さんのブログも Wayback Machine ではほとんど引っかからない。ネットで公開したものが常に登録されるわけでもないし、robots.txt などによって自動収集を拒否されているサイトもあるだろう。そして、おそらく著作権への配慮のために、収集されたデータが公開されるのは2年程経過してからだ*3

複製しやすい≠複製が残る

ネットには複製しやすいという性質がある、だからネット上で複製を規制すること自体が間違っているんだ、という論調もある。だが、実際に記録として残しておくためには、“残すという意思”が必要だ。「ハードディスクの内容なんていつでもコピーできる」ということを、ハードディスクをダメにして中身を復旧できないときに聞いても何の慰めにもならない。著作権保護期間の延長議論で「保護期間を延ばすと文化の保存が阻害される」と聞いても空々しく感じられてしまうのは、そのためだ。以前にも書いたが、文化を残すために必要なことは、“残せる”状況を作るのではなく、「残す」という意思だ。

あえて方式主義という提案*4

国会図書館で古い本が読めるのは、出版物を残すという意思が法的に定められているからだ。だから、これをネットにも適用してはどうか。もともとネットでコンテンツを公開することも publish(出版)という言葉を使うくらいだ。ネットに公開するものは、公的な機関に設けられた記録装置に登録することを義務付けるのだ。もちろん、その使用をネット経由で無料にする必要はない。図書館の蔵書が図書館に行かなければ見られないのと同じように、閲覧場所を制限したり、何らかの認証をかけてもよい。Wayback Machine のように保護期間を用意することもできるだろう。だが、ネット公開したコンテンツを残す仕組みがあれば、将来、どこかで参照できる仕組みを作れる。

そのために巨大な装置が必要であることに違いないが、検索エンジンを作るほどではない。検索エンジンは、いつ更新されるかもわからないコンテンツのためにネット上を探索しまわっているのだが、記録装置はコンテンツを公開する時点だけ機能すればよいのでずっと負担が軽い*5。それこそ、ブログサービスや CMS*6がネット公開時に自動的に登録する仕組みを持てば、ユーザーの負担はほとんどない。

「義務付けても登録してもらえない」という心配はある。だが、登録されないコンテンツは義務を怠っているのだから、著作権による保護から外してしまえばよい。もちろん国外のコンテンツも登録を必須とする。「海外で運営されているサーバーには効力が及ばない」とすると実効性が薄れるばかりか、業者の海外移転を招きかねない。

「それはベルヌ条約で禁止している方式主義*7ではないか」という批判はあるだろう。同感だ。だが、グーグルのブック検索和解案が、まさにその方式主義なのだ。ブック検索和解案は、「版権レジストリ」を使って拒否しない限り、スキャン対象にされても文句を言えなくなる。しかも「ベルヌ条約に基づいて全世界の書籍を対象とするが、アメリカ国内だけでしか使わない(だからアメリカ国内だけで調整可能)」と主張したのだ*8。つまり、日本のシステムに登録されたコンテンツを(日本の図書館など)日本だけで閲覧できるようにすれば、(少なくともアメリカからは)何ら文句を言われる筋合いはない。

そうすることで、システムに登録されるコンテンツは永続的に保存され、登録されないコンテンツはユーザーによって(著作権侵害を心配することなく)再利用されていく、という世界ができあがる。まあ、現実味はなさそうだが、ブック検索よりも、ずっとマシな仕組みだと思う。

*1:1週間経過してニュースになったということは、閲覧者が少なくなっていたということだろうか。wikipedia には閉鎖翌日には更新されているようではあるが。

*2:2004年6月30日に投稿された「皆様、コンニチワ★★★」。

*3:ネットだからといって何でも収集して公開しているわけではない、という点は注目すべきところだと思う。

*4:これを書くのは初めてではないけれど。

*5:twitter のリアルタイム検索も、twitter に投稿された時点で、検索エンジンに内容が送られている。

*6:コンテンツマネジメントシステム

*7:何かの“方式”にしたがったものだけ著作権を保護する仕組みを取ること。

*8:実際にはフランスやドイツから国レベルでの異議申し立てがなされて対象国を限定したが、それは和解案の対象となる国を限定しただけで、対象国以外の書籍スキャンデータが破棄されたわけではない。