映画 「嫌われ松子の一生」

molmot2006-06-14

137)「嫌われ松子の一生」(Tジョイ大泉) ☆☆☆★★★

2006年 日本 「嫌われ松子の一生」製作委員会 カラー ビスタ 130分 
監督/中島哲也    脚本/中島哲也    出演/中谷美紀 瑛太 伊勢谷友介 香川照之 市川実日子 黒沢あすか 柄本明


 「下妻物語」から丁度二年だが、昨年末にはTVで「X’smap 虎とライオンと五人の男」を発表した中島哲也の新作は、下妻があまりにも傑作過ぎて過剰な期待を持たれてしまいがちで、本来ならば公開早々に観に行こうと思っていたが、慌てず、ゆっくり作品と向かい合いたく思い、ようやく観た。とは言え、日活撮影所で働いている友人が、撮影がエライことになってるぞ他の組は迷惑してるけど、と興奮して語っていたのを聞いたりしていたので、押さえようとは思いつつ楽しみにしてはいた。
 原作は未読なので比較はできないが、普通に面白かった。下妻と事細かに比較して駄目だと言っているヒトもいるが、全く異なるハナシだし、映像の見せ方に共通項があるにしても下妻になっていないから駄目と言われても困る。むしろ、日本では珍しく成功したシネミュージカルになっていることになっていることに、まず感心した。1シークエンスのみであれば近年でも「快盗ルビイ」や「かえるのうた」の様な珠玉のシークエンスを挙げることはできるが、全篇に渡ってならば、「君も出世ができる」以来の快挙ではないだろうか。
 「下妻物語」が「アメリ」をベースにしていたように、本作は観る前は当然「ダンサー・イン・ザ・ダーク」と踏んでいたが、中島哲也色に染まりきった本編を観ていると何がベースと言っている場合ではない。
 前半は、過剰な映像の洪水を楽しんでいたが、一方で回想一代記は作品の軸が不透明になりがちという欠点が、様々な工夫を凝らした映像で救われながらも散漫な印象として残り、作品に入り辛く感じることもあった。しかし、黒沢あすか中谷美紀の対立軸として登場すると、途端に作品の軸がしっかり立脚点を持ったので、以降は安心して観ることができた。
 観る前は「サンセット大通り」や「下妻物語」同様、死者或いは死に近づいた主人公自らの回想かと思っていたのだが、瑛太演じる甥からの視点で松子の一生が回想される。だから甥による過剰な妄想と考えても良いし、キャラクターの明快さはそこに依拠していると考えても良い。
 原作がどういったテイストになっているのか知らないのでなんとも言えないが、ミュージカルやギャグを排除しても映像化できるし、それこそそういった形で映画化すれば「またの日の知華」になるのだが、あの作品が正攻法で行ってしくじったように、あまりにもパターンに嵌ったハナシだけに、演出技量が並以上でようやく観られる作品になると思うが、不幸すぎて笑えるという視点から映画化した中島哲也は凄い。
 前述した黒沢あすかが登場してから映画がポンと跳ね上がるのは、やはり女性二人を描かせれば充実した描写になってしまう中島哲也の特性をよく表わしているのではないか。喫茶店での会話や、お得意の8mmのインサートに泣きそうになる。又、時制を変えた回想形式を取り入れることで、大量に登場するキャラクターが単調にならないように見せ方で多角化していて感心した。
 蒼井そらや、片平なぎさ山本浩司の使い方の巧妙さや、終盤の死の真相への持っていき方など、実に良い。
 ただし、「下妻物語」ほどの大絶賛にはならないのは、やはり130分は長く、30分切れとまでは言わないにしても、後20分切っても作品の魅力は伝わる筈だし、ラストが間延びし過ぎていていつ終わるやらという気分になった。又、緩急ということに関して、本編中の“急”の連投が退屈はしないものの、黒沢あすかでもう少し“緩”があっても良かったと思うが。
 何にしても膨大な情報量なので一度観ただけで断定的なことは言い辛く、当然DVDは購入するので何度も観ていくと又違った見え方がしてくるかもしれない。再見、再々見によって、良く思うか悪く思うか、どちらにも可能性のある作品だと思う。