コールドマウンテン

コールドマウンテン」 監督の長所短所双方が目立つ映画

全米図書賞を受賞したチャールズ・フレイジャーのベストセラー小説を「イングリッシュ・ペイシェント」のアンソニー・ミンゲラ監督で映画化したのがこの作品である。


 1860年代、アメリカ。コールドマウンテンという名の美しい田舎で出会った、土地の青年インマン(ジュード・ロウ)と、牧師令嬢エイダ(ニコール・キッドマン)。しかし、インマンはほどなく南北戦争の兵士として借り出され、エイダは彼の帰りを待つと誓う。壮絶な戦場で瀕死の重傷を負うインマン。一方、父の急死で生活の糧を失ったエイダは、流れ者の女ルビー(レニー・ゼルウィガー)に生きるすべを教えてもらいながら、インマンの帰りを待っていた・・・・。


 ニコール・キッドマンと、ジュード・ロウという美男美女を主役にすえ、南北戦争を背景に壮大な純愛物語をつむぎだしたのは、アカデミーの受賞もした監督アンソニー・ミンゲラである。ミンゲラの演出力は、ハンサムだが田舎者で無骨なインマンと、都会から来た牧師令嬢エイダが、初めて会った瞬間から惹かれ合い、少ない会話の中で愛を静かに燃え上がらせていくさまを描くとき、もっとも発揮されているように思える。二人の互いへの気持ちを、瞬間に交わす視線や、出征間際までキスさえしない二人の何気ない立ち姿ですら際立たせて見せるのは、ミンゲラの腕の見せ所といったところか。

 また、彼の「スケールの壮大さ」は「イングリッシュペイシェント」でも証明済みで、重傷の兵士でごった返す病院を差し挟みながら映像化される、山盛りの死体が連なる南北戦争の悲惨な実態(その戦場の描き方はまるでベトナム戦争を髣髴とさせる)などは、さすがと言う他無い。南北戦争に参戦すると大喜びする若者たちが、一転地獄の戦場でおいつめられる様や、戦争に赴かなかったならず者たちが牛耳る寂れた町の様子、戦争とは無関係なところで略奪を繰り返す兵士たち、と、「戦争の実態」を普遍的に描いて見せるところに、ミンゲラの主張が見えるように思える。

 お嬢様育ちのエイダに一から生活の知恵を教えるルビー演じるゼルヴィガーの演技は、アカデミー助演女優賞ももっともだとうなずけるできである。サザンベル(南部美人)=エイダとサザントンボイ(おてんば娘)=ルビー・コンビはユーモラスでたくましく、暗い画面に傾きがちなこの映画に生き生きとした色彩を与えている。このへんもミンゲラの演技指導と演出の賜物であろう。

 一方、インマンが脱走しエイダに会いに行く道のりでさまざまな人々に出会い・・といったエピソードは、フィリップ・シーモア・ホフマンナタリー・ポートマンといった有力キャストを迎えながらも、どうもぱっとしない印象が否めない。だらだらと続き、見せ場が無いというべきか。また、もちろん二人は再び出会うわけだが、その盛り上げ方、も、二人の恋の盛り上げ方や戦争の陰惨な描き方といった卓越した演出力からすると、どうしたの?と聞きたくなる様な精彩の欠け方である。ラブシーンも美しくはあるが、心には残らない。ミンゲラ監督の弱い部分が一気に噴出してしまうのが、後半だともいえる。多くから出たであろうこういった批判をうまく料理したときこそ、ミンゲラが真の名監督となる時なのかもしれない。

上の欠点の上、長編でもあるので、時間の無い人にはあまりおすすめできない作品である。

映画として 6.6/10
美男美女映画として 9/10