【午前十時の映画祭】素晴らしき哉、人生!

午前十時の映画祭第2弾が2月5日からついに始まりましたね。今回は第1弾のラインナップ、赤の50本に加えて、新たに青の50本を上映し、計100本の名作を安いお値段(学生なら500円)、大きなスクリーンで観られることになりました。千葉唯一の朝10劇場、TOHOシネマズ市川コルトンプラザでは今回は青の50本を上映します。

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私としては青の50本制覇くらいはしたいなあと思っていたんだけど、いきなり初週の「バンド・ワゴン」を逃してしまいました。朝10制覇の夢、初週にしてついえる。しかし2週目は気を取り直し、しっかり朝8時に起きて(この時間に起きるのがしんどいほど怠惰な生活をしている)観に行くことができましたよ。市川コルトンプラザの2週目は「素晴らしき哉、人生!」でした。

今さら私が説明するまでもない、言わずとしれた大名作。いやもう、ほんとに名作すぎた。素晴らしかった。ファニーでキュートでビターで、抱きしめたくなるくらい愛らしい作品。観賞後のこの気持ちは何ものにも変えがたい。

なんといっても主人公、ジョージ・ベイリーが素敵。いつも街の人々のために働き、自分のことは二の次にしてきた男なのだが、この主人公の「善人」としてのキャラクター造形が本当に素晴らしい。正しいことしかしない聖人にはなっていないのだ。冗談を言ったり、ときにはむしゃくしゃして物に当たってしまったり叔父にひどい言葉をかけてしまったりして、決してスマートな人間ではないが、街の人々を見捨てることは絶対にできない男。自分のために生きようと思っても、他人の幸せのために苦労することはやめられない。現実にはここまでタイミング悪く不運に見舞われることはなかなかないが、こういう人は実際いる。自分の夢や欲だってある、他人に奉仕することそれ自体が趣味というわけではない。それでも誰かが困っていたら自分の希望は後回しにする人。そういう人を見たことがある。それにどんな人間にだって、自分のことを投げ打ってでも他人のために何かをしたり、あるいは自分の幸せと他人の幸せの狭間で激しく葛藤したりする経験があると思う。たいていの人間はそんなに器用ではなく、誰かのために損をすることもあるし、人間にはそういう心がある。この作品はそういう私達の中にもある"良心"を再確認させてくれるものだと思う。ジョージ・ベイリーの心は誰にでもある。ジョージ・ベイリーが未だに「ヒーロー」として世界中の人々から愛されているのはそれゆえではないかと思う。私にもある、あなたにもある、人間の「やさしい部分」を改めて信じさせてくれるから。しかもただただ良心を全肯定するのではなく、常にほろ苦さをもって良心の強さと脆さの両面を描いているのがいい。他人のために生きれば自分が損をするのはやはり事実。それでも最後には、他人のために何かをする人生は素晴らしいじゃないか!と希望を感じさせてくれるから素晴らしいのだ。

ジョージ・ベイリーを演じたジェームズ・ステュアートがまた非常にチャーミング。ジョージ・ベイリーが人々から愛されるのは単に他人のために頑張っているからだけではなくて、ジェームズ・ステュアートがベイリーを「社交的で愉快な男」として演じているからでもある。陽気で感情表現が大きく、おしゃべりのセンスも持ち併せていて、男にも女にも実に人気がありそうなかんじなのだ。脚本に書かれたジョージ・ベイリーのキャラクターが魅力的だっただけではなく、ジェームズ・ステュアート自身が人々を惹き付ける大きな魅力を持っていたからこそ、愛すべき存在として人々の記憶に焼き付いているのだろうなあ。

悪役ポッターすらも魅力的なのがまたいいなあと思う。悪役がただ「悪い行いをする人間」としてのっぺらぼうのように描かれているのはつまらない。彼らにもファニーな部分はある。やはり悪役も同じ人間として描かれている作品はそれだけでおもしろいと思うし、私はそういう作品が好きだ。ポッターは嫌らしくってねちっこくて、でもちょっと可愛いなコイツなんて思ってしまう最高のヒール役だった。

ラストで勧善懲悪になっていないところにも個人的には好感をもった。それでいいのかと釈然としない気持ちがまったくないわけではないが、たぶんこの作品ではこの終わり方が一番よかったと思うのだ。この作品で伝えたいのは、一人の人生はたくさんの人生に影響を与える大切なものだということ。何もすべてに決着をつける必要はないのかもしれない。それよりも、強者の国、アメリカで、「自分のために生きること」以外の価値を提示してみせ、勧善懲悪には終わらない作品を撮る、このことに大きな意味があるように思う。そしてこの作品が今でもアメリカの大学の映画学科で必ず作品作りの指針として取り上げられていることにも。

素晴らしき哉、人生! [DVD] FRT-075

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※子供時代のメアリーとヴァイオレットがかわいすぎて、「こんにゃろー、むぎゅうってしてやるぅ!」と不覚にも思ってしまいました。