ブリッツ

「種々の英国顔を堪能する」という当初の目的はしっかり達成されたけども、それ以外は……うーん。

時には犯罪者に手荒な制裁を与えることも辞さない(要するに逮捕する際に犯人をボコボコに叩きのめしたりする)型破りな刑事と警官ばかりを狙うクレイジーな連続殺人犯の対決を描くクライムサスペンス。主人公の刑事、ブラントを演じるのは、みんな大好きジェイソン・ステイサムだよ。


うーん、何と言えばいいか。正直、あまり巧い映画ではない。演出や構成のぎこちなさが想像以上に目についたし、脚本も練り不足のような。登場人物の内面描写を排除し行動のみをサクサク見せていくタイトなつくりが反って場面の繋ぎをわかりづらくさせ、聞き取り捜査の流れが掴みにくくなっているとか、そういう難点がいろいろ見られる。

あるいは、おもしろくなりそうな要素はいくつもあるのに、それがことごとく実にならないもどかしさも感じる。例えば、ある婦人警官のエピソードにランタイムのかなりの部分が割かれるのだけど、そのわりに最後の最後でフォローが入らないので、結局彼女にそれだけの時間を割いた意味が見出だせない。しかしその時間のぶんだけ、ブラントと連続殺人犯の対決の描写は減ってしまうし、途中からブラントの相棒になるナッシュ(パディ・コンシダイン)とのバディものとしての度合いも弱まってしまう。結局、どれも中途半端になってしまうんだよね。せめて婦人警官のパートが最後まで描ききられていれば、「警官ばかりを狙う連続殺人事件」を軸にした群像劇になり得たと思うのだけど。

そんな粗の多いこの映画が空中分解せずにいられたのは、役者の魅力に依るところが大きい。特にステイサムのワイルドでセクシーな佇まいが素晴らしい……のだけど、これにもちょっと「うーん……」となってしまうところがあって、というのは、ちょっとイサムがキャストの中で浮いてしまっている気がするんだよな。主人公、しかも型破りな刑事の役なのだから浮いていてもいいと言えばいいのだが、その浮き方が「魅力を活かしきって貰えずに宙ぶらりん」というかんじに見えたので、少しもったいないなと。たぶんこんな風に感じてしまうのは、夏に観た「メカニック」がイサムのアイドル映画としてほんとに素晴らしい出来だったからなのだと思うけど、それにしたって本作は、イサムという素晴らしいスター俳優をどう使うかという点に無意識すぎるように思う。とりあえずもっと相棒役のパディ・コンシダインとの関係を彫り込んでほしかった。

しかしまあいろいろ不満を言いつつも、実のところ、タイトルロールである連続殺人犯を演じたアイダン・ギレンとブラントの同僚刑事を演じたルーク・エヴァンスが画面に映っている間はずっと幸せな気分でいられたので、満足したといえばそうなのかもしれない。どちらも動いて演技している姿は本作で初めて見た。

アイダン・ギレンは「クレイジーで完全におかしな奴」のフリをしている小物の表情を絶妙なタイミングで見せてきて、なんとなく「こういう役はやりなれてるのかしら」と思ったりした。この目まわりの疲れた英国老け顔はたいへん私好み。

(ちょうどいい画像がないから「インモータルズ」のゼウス様貼っちゃう。キラキラ。)

ルーク・エヴァンスは初登場シーンであまりにも完璧なハンサムぶりを披露するので要チェック。あんなに爽やかにトーストをかじる人を私は今まで見たことがない。少女まんがばりに画面がキラキラする。

賛否ありそうなラストも私はなかなか好き。最後の最後にきて突き放す冷徹さはいかにも英国的という気がする。